中曽根康弘だったら海洋国家民族と気取った言葉を使うのだろうが、海に囲まれた日本人が海洋国家の意識を持ったのは、幕末から明治にかけて以降であろう。それまでは狭い日本列島の中でチャンチャンバラバラに明け暮れた典型的な”山族”であった。
その歴史が長かったものだから、明治以降も海洋資源に対する取り組みが遅れたまま今日に至っている。海洋資源の意識もせいぜい魚を獲るか、アサリやハマグリを拾う域をでていない。山族だって海の魚を獲ることぐらいは出来る。海族ならば、ずっと以前に東支那海の海底資源に着目すべきであった。
北海のバイキングの末裔である英国人は、まさに”海族”。スペインの無敵艦隊を破った後は、七つの海の支配者になった。ドイツは典型的な陸軍国。第一次世界大戦、第二次世界大戦で海を支配するイギリスやアメリカに対して、Uボートという潜水艦隊を使って対抗している。山族が海族と互角の勝負をしようとすると潜水艦に目をむけるものらしい。
最近、中国は東支那海で潜水艦の訓練活動が活発になっている。六〇隻の潜水艦を持ったというが、大部分は旧式の中古品。海中をチンドン屋が派手に鐘や太鼓を叩いて走り回っているようなもので、その行動はすべて日本の海上自衛隊に把握されている。韓国や北朝鮮の潜水艦も大同小異なので、これら山族の潜水艦は、ドイツのUボートほどの脅威にはならないと軍事評論家の見解は一致している。
潜水艦が軍事的な脅威となるのは、核ミサイルを搭載して、原子力エンジンによって何ヶ月も潜行したまま作戦活動を行う時に限られる。最新式の原子力潜水艦は、海中で音をださない隠密活動能力が備わっている。アメリカの西海岸まで中国の原子力潜水艦が出没するようになれば、キューバに核ミサイルの発射基地を持つに等しい顕在的な脅威となる。
第二次世界大戦は、大艦巨砲の時代から航空機戦略の時代に変わったことを見せつけた。山族・海族に代わって空族が加わった。だが、これからはミサイルが軍事戦略の根幹となるであろう。そのミサイル基地も固定型では、敵国から狙われやすい。アメリカの第七艦隊は中国のミサイル基地のすべてに照準を合わせているという。
その結果、陸上での移動式ミサイル発射台や地下にミサイル発射基地を設けるようになった。北朝鮮のミサイル発射基地は、すべて地下移動式になったという。ここであらためて再評価されているのが、海中深く潜行する最新式の原子力潜水艦である。音をだして走り回る旧式の潜水艦は怖るるに足りないが、山族が最新鋭の原子力潜水艦を保有すれば対抗策がない。
米ソ冷戦時代は終わりを告げたが、新たな軍事緊張時代の最中にいることを忘れてはならない。軍事情報についても軽視せずにウオッチする必要がある。単純な日本ナショナリズムは有害であるし、ましてや日本が防衛核を持つのは危険思想として排除しなくてはならない
26 山族と海族に空族 古沢襄

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