軍事専門家にいわせると「戦時中の日本海軍の最強戦艦”大和”もイージス鑑の前では赤子のようなものですよ」ということになる。巨大戦艦”大和”の主砲は40キロの射程距離。これに比較すれば、目標の捜索や探知、攻撃を高性能レーダーとコンピューターで自動処理するイージス・システムを搭載し、最大射程100キロ超の迎撃ミサイルを同時に10個以上放つイージス艦は、無敵の最強艦なのかもしれない。
戦艦に匹敵するともいわれる最強艦、洋上防空の要であるイージス艦六隻体制を海上自衛隊はとろうとしている。日本海軍の最強戦艦”大和”を六隻も持っているようなものだ、と軍事専門家に胸を張られると”大艦巨砲主義”の日本海軍が復活したような錯覚さえ覚えてしまう。
同じような島国でありながら日本と英国を取り巻く環境が大きく異なる。日本の場合は北朝鮮のノドン・ミサイルの脅威に曝されているが、ヨーロッパ大陸には英国に照準を合わせたミサイルが存在していない。その代わり国内のイスラム系過激派のテロの脅威に曝されている。日本国内にはイスラム系の過激派の動きはほとんどと言ってよいほどみられない。
日本と同じ海洋国家の英国だが、子細にみると海軍力の内容が異なる。ジェーン海軍年鑑によると英国海軍は①インヴィンシブル級航空母艦が三隻②42型駆逐艦が八隻③フリゲート艦十八隻④原子力潜水艦が十五隻⑤これらを含めた主力艦艇が九十隻・・・といった現有勢力。ヨーロッパの中では一番バランスのとれた海軍力を誇っている。だが、イージス艦は保有していない。これに次ぐのがフランス海軍、スペイン海軍となる。スペイン海軍はイージス艦一隻を保有、さらにもう一隻を配備しようとしている。
海上自衛隊は①航空母艦は保有しない②高度な防空能力を持つイージス艦五隻を保有、さらに一隻を建造中③おやしお型潜水艦(2750トン)級が八隻④これらを含めた護衛艦五十四隻、潜水艦十六隻、掃海艇三十一隻、高速ミサイル艇七隻など主力艦艇が六十隻・・・となっている。これだけをみるとアジア最強の海軍力を備えているが、かなりアンバランスなものともいえる。
やはり米海軍を補完する海軍力として誕生した歴史的背景、憲法上の制約などから海峡封鎖・対潜作戦・シーレーン防衛に重点を置いてきた宿命を背負っている。とはいうもの最新鋭イージスシステムを搭載した対空誘導弾搭載護衛艦・イージス艦は「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」の四隻を保有し、ヘリコプター搭載能力とミサイル防衛に対応した7700トン級の新型イージス艦二隻の配備も決まって、六隻体制をとる。このうち2005年8月に一隻目の「あたご」が進水、2007年春から配備される。米海軍の六十隻には及ばないが、イージス艦を六隻保有する国は他にない。
原子力潜水艦こそ保有していないが、①第1潜水隊群(呉)の「ちはや(救難艇)」「みちしお」「まきしお」「いそしお」「はやしお」「あらしお」「ふゆしお」「はるしお」「なつしお」「くろしお」②第2潜水隊群(横須賀)の「ちよだ(救難艇)」「おやしお」「うずしお」「なるしお」「ゆきしお」「たかしお」「さちしお」「わかしお」③第1練習潜水隊(呉)の「あさしお」「はましお」もアジア有数の潜水艦隊。
こうみるとバランスを欠いた海軍力とはいうものの、イージス艦と潜水艦隊が突出して目立つ強力な海軍力といえる。専守防衛を旗印にしてきた海上自衛隊だが、ここまで成長していることを知る人は少ないのではないか。米海軍は「九月から日本海にイージス巡洋艦一隻を継続的に配備する」とイングランド米海軍長官が言明、すでに姿を現した。さらにもう一隻が配備される計画だという。
日米合わせて八隻のイージス艦によって、北朝鮮のノドン、テポドン・ミサイルを洋上で迎撃する体制造りが着々と進められているが、まだ100%ミサイルを撃ち落とす能力が備わっていない。枕を高くして眠るわけにはいかないというのが現状であろう。
158 最強戦艦”大和”級を六隻も持つ? 古沢襄

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