178 日ロ関係に前進の兆し 古沢襄

安倍政権の外交課題として日中・日韓関係の修復に焦点が合わさっているが、それには中国と韓国側の歩み寄りも必要になる。その気配がまだ見えてこない。むしろ私は日ロ関係の方が先行して進展するのではないかと見ている。
日ロ関係は森首相の当時に森・プーチン間の個人的な友情が生まれて、イルクーツク会談などで前進の兆しがあった。しかし小泉首相になってからは小泉・ブッシュ間の友情が先行して、日ロ関係が停滞したのが事実として残った。
安倍後継首相が確実視される中で、ロシア側から事態を打開する動きが出ていることに注目する必要がある。プーチン大統領は九日、各国のロシア専門家ら約50人と意見交換した際、日本との領土問題に自ら言及し「現状のまま固定化するつもりはない」「双方の妥協で解決したい」と強い意欲を語っていたことが分かった。日本側からは袴田茂樹青山学院大教授が参加している。
この会合でプーチン大統領は平和条約締結後に歯舞、色丹二島を日本に引き渡すことを定めた1956年の日ソ共同宣言を重視する姿勢もにじませた。任期を二年残したプーチン大統領は、任期内に事態を打開したいとのメッセージを発したとも受け取れる。
さらにプーチン大統領は一般的な質問に答える中で北方領土問題に言及。「一時は日本がこの問題を内政のゲームに利用していると感じていたが、本気で解決したいという意図を理解した」とかなり踏み込んだ発言をしている。
この中で長年続いた中国との国境紛争を一昨年に最終的に解決した経緯に触れ、「歴史的な出来事だった。日本とも同様に双方の妥協によって解決したい」と語り、発言の中で「双方の妥協」という言葉を数回繰り返したという。
国後、択捉二島を含めた四島返還を求めてきた日本側の要求とは隔たりがあるが、まず歯舞、色丹二島の返還を実現し、国後、択捉二島について継続交渉するとともに四島周辺海域での安全操業を実現するのが現実的ではないか。
日本側が四島返還に固執すれば、北方領土問題が解決する可能性が難しくなる。ロシア側も二島返還で領土問題に幕をひく態度にでれば、北方領土問題が解決する道は遠のく。
プーチン大統領のいう「双方の妥協によって解決したい」妥協案が何を指すのか定かでないが、停滞している日ロ交渉を協議のテーブルに乗せるのが先決ではないか。外交によって領土問題を解決するのは口でいうほど容易いものではない。
妥協によって解決の糸口を探ろうとすれば、双方の国内から”弱腰外交”の非難がでることも覚悟せねばなるまい。だが、高い支持率とタカ派と目されている安倍新首相なればこそ国内の不満を押さえて日ロ関係を一歩前進させる可能性があるのではないか。日ロ関係が前進すれば、日中・日韓関係にも違った局面が生まれる可能性がある。遠回りのようにみえるが、案外、一番の近道になるのではないか。

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