198 北朝鮮制裁は慎重にと盧武鉉 古沢襄

安倍首相になって北朝鮮による拉致問題が進展するかとよく聞かれる。少なくとも小泉首相よりは毅然たる態度で拉致問題に対処してきたから、対話と圧力路線から一歩踏み出して、圧力を強める方向にあることは間違いない。問題はそれを北朝鮮がどう受け止めるかである。相手があることだから、むしろ北朝鮮の出方如何ということになる。
拉致被害者の家族たちは小泉首相の対話と圧力路線に不満を持っている。だが小泉首相にしてみれば、日本だけが圧力を強めても、中国が背後で北朝鮮を支援すれば、効果は薄いという大局判断があったように思う。外務省の考え方も、その路線上にある。
しかし、ここにきて局面は大きく変わろうとしている。米国が経済制裁を強化し、中国もまた北朝鮮の暴発を押さえるべく北朝鮮に圧力をかけている。北朝鮮は日本と米国が圧力をかけてきても、中国と韓国が経済支援を続けてくれれば、急場はしのげると計算していたに違いない。
北朝鮮にとって都合のいい構図が、今崩れようとしている。そのタイミングに北朝鮮にとって最も嫌な相手である安倍首相が登場するのだから、これまでの瀬戸際外交のままいけるのか、極めて重要な判断を迫られているのが真相ではないか。窮極的には北朝鮮は日本と国交を結び、日本の経済支援を仰いで国の建て直しする道しかない。その意味では北朝鮮の方こそ日朝和解を求めている。
暴発とも思える北朝鮮の日本海にミサイル発射は、日本に対する威嚇カードを切って、日本国内の動揺を期待したのであろう。ノドン・ミサイルや新型スカッド・ミサイルは、北朝鮮の技術力が予想以上に高いことをみせつけたが、米本土を狙うテポドン・ミサイルは空中爆発を起こして実用にほど遠いことを暴露してしまった。米国は北朝鮮の足下をみてしまったし、新型スカッド・ミサイルの発射は韓国に疑念を与えた。そこには一種の焦りすら感じる。
ミサイル・カードを切ったのは、やはり失敗だったのではないか。北朝鮮が好む瀬戸際外交では事態は好転しない。むしろ米国の経済制裁カードを予定通り実行する逆効果を生んでいる。朝鮮半島の軍事衝突を懸念した韓国の盧武鉉大統領が、渡米してブッシュ大統領と会談したのは、米国の制裁措置を慎重すべきだという要請をする意図があったという。北朝鮮を硬化させない融和策を説いたというが、ブッシュ大統領は応じなかった。これも北朝鮮にとって誤算となった。
残された道は拉致問題の全面解決しかない。それがあって初めて日朝対話がテーブルに乗る。拉致問題は解決済みと主張してきた北朝鮮にとって、越えられない大きな壁なのだが、それを越えないことには、日本からの経済援助は期待できない。仮に越えても日本人の国民感情が北朝鮮とくに金正日国防委員長を許さないかもしれない。
考えられるのは、六カ国協議にも加わらず孤立したまま一種の鎖国状態に逃げ込むことがあり得る。拉致問題の解決を目指す安倍首相にとって厄介な相手になるが、ここは焦らずに北朝鮮の変化を待つ我慢較べになる。鎖国状態になれば北朝鮮の窮迫は深刻化するし、軍部にも不満がたまるであろう。金正日国防委員長の孤立も考えうる。
もう一つは核実験を行って、最後の瀬戸際外交カードを切る可能性がある。国際的な非難が一層高まるし、中国もロシアも北朝鮮離れをみせるかもしれない。北京オリンピックを目前にした中国にとって暴発する北朝鮮はお荷物以外の何物でもない。
核と拉致は北朝鮮が越えねばならぬハードルとなった。姑息な瀬戸際外交はもはや通用しない。それに北朝鮮が気づくまで関係国は経済制裁の手を緩めてはならない。安倍首相になれば、一気に拉致問題が解決すると思うのは、甘過ぎると思わねばならない。

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