河口湖の別荘に籠もった安倍自民党総裁は、党役員人事と組閣人事で仕上げの構想を練っている。玄人筋の予測は中川幹事長、与謝野官房長官に収斂されて、麻生氏は重要閣僚として入閣ということのようだが、手固い人事だとは思うもの、清新さに欠ける面があることは否めない。サプライズもない。最大の決戦場・参院選を目前にしているのだから、手固さよりも大衆受けのする人事が必要な気がする。
そうなれば、このところ人気が急上昇している麻生幹事長という手がある。中川氏に較べれば党内的な手腕は未知数。人気だけで参院選に勝てるのかという不安がないわけではない。離党している無所属議員の復党という差し迫った課題では、場慣れしている中川氏の方がスピーデイに処理できるという見方がある。リスクを承知で麻生幹事長を選択するのか、若い安倍総裁にとって最初の関門となった。
富士山麓には首相の座を池田勇人氏にバトンタッチした岸信介氏の別荘が御殿場にあった。池田内閣になって訪れる人が少なくなった御殿場の別荘には日曜日になると通ったものである。岸氏がゴルフに行かない日を選んで行った。二・二六事件で処刑された北一輝のことを調べていたので、岸氏の回顧談は面白かった。
岸首相や吉田首相の孫の世代が総裁選で争うことなどは想像もつかなかった。岸、吉田の政治路線は明らかに違うのだが、安倍、麻生の路線はあまり違わない。私の個人的な趣味からすれば、麻生幹事長なのだが、どうもそうはならない予感がする。路線の違いはないのだが、麻生氏がこれ以上力をつけることへの警戒感が安倍周辺にあるのではないか。
それにしても麻生氏の演説は群を抜いている。堅い政策論ではないのだが、当意即妙の上手さがある。東京・秋葉原で安倍、麻生、谷垣三候補が街頭演説をした時に麻生氏が開口一番「自称”秋葉原オタク”の皆さん!」と聴衆に呼びかけた。絶叫調の演説に聞き慣れている私には「オヤッ?」と思わせた一瞬であった。
浅草での街頭演説では「百四十年前、徳川幕府が長州征伐の兵を集めたのが、ここ浅草だ」とサラリと言ってのける。ご承知のように安倍氏は”長州っぽ”。それをお江戸の真ん中で揶揄するのだから、相当の心臓を持っている。江戸贔屓の下町っ子には、たまらない台詞となった。
巣鴨では、おばあちゃんに向かって「元気シルバー!」と呼びかけた。実に芸が細かい。行く先々、土地が変われば、その土地に合わせた言葉がポンポンと飛び出す。それだけ土地の事情を勉強しているのであろう。漫画ばかり読んでいるのではない。
ネット調査では麻生太郎の好感度が54%でトップに立ち、安倍晋三の16%を大きく上回った。浅草では「ばあさん、じいさん!嫁に分からないようにためた預金通帳を、枕の下から取り出して眺めるなんて暗いじゃありませんか」とやってのけて聴衆の笑いを誘っていた。「敬老の日」のことである。このキャラクターを選挙で生かさないことには、自民党にとって大損だと思うのだが・・・。
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