自民党の党三役の一角から津島派(旧田中派)が姿を消した。党内では森派に次ぐ第二派閥。森前首相は幹事長候補に同派の久間章生総務会長と額賀福志郎防衛庁長官の二人を数えていた。中川秀直政調会長は森派だから、総裁と幹事長は同一派閥から出さないという「総・幹分離」の原則を守ろうとすれば、この二人の幹事長起用がある筈だと津島派が期待したのも無理がない。
だが総裁選で麻生外相が予想以上の健闘ぶりをみせた。大方の予想が麻生幹事長の可能性があると注目したので、久間、額賀両氏の幹事長説は早くから消えている。それでも第二派閥の面子にかけて政調会長か総務会長は間違いないと信じていたに違いない。人事の蓋を開けてみて「これでは総裁選の論功行賞人事ではないか!」という津島派の恨み節がでた背景はそういうことである。津島派は派閥をあげて安倍総裁を支持していない。自由投票にしたから、かなりの票が麻生、谷垣両氏に流れている。
「総・幹分離」の原則は、首相が安定した党内基盤を保持するための自民党の知恵といえる。最大派閥といっても衆参両院議員を合わせた森派は八十数人。四百人余りの自民党議員の中では一握りでしかない。小渕内閣では森幹事長、森内閣では野中幹事長、小泉内閣でも山崎幹事長を発足当時に起用している。
だが小泉首相は山崎幹事長の後に森派の安倍幹事長を選挙の顔として起用して「総・幹分離」の原則を破った。小泉首相は森派を離脱して無派閥だという大義名分を立てたのだが、党内の反発はなかった。第二派閥の津島派を三役として処遇する配慮をみせている。
今度の安倍人事でも、安倍総裁は森派を離脱して無派閥を標榜している。中川幹事長の起用は、その理屈で成り立った。だが小泉人事と違うのは、数の論理からいえば第二派閥の津島派、第三派閥の丹羽・古賀派から三役を起用するところを、津島派を外し、第三派閥と第四派閥(伊吹派)に総務会長と政調会長を割り振り、国対委員長も津島派ではない二階氏。いずれも派閥をあげて安倍支持を打ち出したところである。津島派が露骨な論功行賞人事だボヤくのも無理からぬところがある。
といって反主流派になって安倍総裁に歯向かうエネルギーもない。閣僚人事で埋め合わせをしてくれると期待するしかない。安倍総裁も津島派をとことんまで追いつめる気はないようだ。ちょっとしたお仕置きで済ませるのではないか。それにしても全盛時代の田中派を知っている私には、旧田中派の落日は感慨深いものがある。
コメント