242 ノーブリス・オブリージュ 古沢襄

朝日新聞OBである為田英一郎氏と浅草で痛飲したことがある。英一郎氏の祖母と私の祖母は姉妹、子供の頃からの付き合いである。お父さんは朝日新聞の文化部記者。私が共同通信社に入社した初任地が仙台であった。同じ一年生記者に朝日新聞の石川真澄氏(故人)がいて、仙台市役所の近くにある「三吉おでん」で、よく飲んだ。半世紀も昔の話となった。
この頃、英一郎氏は東北大学の学生だったが、卒業して朝日新聞に入社、ソウル特派員、ワシントン特派員と外報部記者として頭角を現していった。私は畑違いの政治部記者になっていたが、英一郎氏の記事だけは特別に切り抜いてスクラップ・ブックに貼った。これは身近な者にしか分からない心情であろう。記事からは、ニュースだけでなく英一郎氏の息づかいが聞こえてくる。
浅草で酒を酌み交わしながら昔話に花を咲かせたが「最近の朝日は左にスタンスを移し過ぎていないか」と苦言を呈した。英一郎氏も左のスタンスをとっているのは分かっていたが、伝統的な朝日新聞の中庸の精神を保っている。私の付き合った朝日人は、いずれも中庸の精神の持ち主である。
英一郎氏は黙っていた。そして私のことを「ノーブリス・オブリージュですね」といって笑った。皮肉だったのかもしれない。私は雑学では人後に落つるものはないという自負はあるのだが、ただそれだけのものである。しかし、身内からノーブリス・オブリージュと言われたことは嬉しかった。それになるべく努力するはめとなったのだが・・・。
お互いに定年を迎え、第二の人生を歩んでいる私たちだが、拉致に始まり、ミサイル発射、核実験と国際社会に背を向けて、暴走する北朝鮮問題について英一郎氏の見方を聞いてみたい気がする。英一郎氏の後輩に当たる人がテレビで希望的な楽観論を述べていたからである。
私は国連決議に北朝鮮は挑戦的態度をとると思う。一度手にした核は手放さないと見ている。米国はどうか。イラクで四苦八苦の米国は、東アジアにまでは手が回らないという観測がもっぱらである。北朝鮮の説得は中国に任せるのであろうか。
それは違うといいたい。北朝鮮の核保有を阻止できなければ、イランの核保有も阻止できない。北朝鮮とイランが核を保有すれば、反米の国際テロ集団に核が流れる可能性が濃厚となる。米国の中東政策は根底から覆される。
北朝鮮の核保有は、まさに中東問題に直結している。単に東アジアの問題ではない。米国は単独でも船舶の臨検を強行し、局地戦も辞さない覚悟だとみている。バンカーバスターを使った核施設の攻撃は避けられそうもない。日本はその危機的状況に直面している。そうならないことを祈っているが、最悪の事態も想定しておく必要があるのではないか。

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