ヘソ曲がりが新聞記事を読む時は、トップ記事は見出しだけ、せいぜい読んでも最初の二、三行で他の記事に目を移す。だが紙面の片隅にある一段見出しの小さな記事には隅から隅まで、よく目を通す。
首相の一日の動静を伝える一段見出しの「動静欄」は、首相を取り巻く人の動きがかいま見られて面白い。この二ヶ月間、欠かさず見ているが、中川幹事長が首相官邸を訪れる回数が思ったより少ない点が気になる。小泉首相の時は山崎幹事長や武部幹事長が日に何度となく首相官邸に足を運んでいた。
十六日の夜の安倍首相は、六時四十六分からホテルオークラのレストラン「バロンオークラ」で自民党の丹羽総務会長、二階国会対策委員長、片山参院幹事長と会食している。少し遅れて青木参院議員会長が加わった。
七時二十五分になって盟友の中川政調会長が駆けつけた。一番遅れて来たのは中川幹事長。会食だから詰めた話が出るわけでないが、首相と自民党幹部の意志疎通をはかるには格好の場となる。やはり中川幹事長がイの一番に駆けつけているのが望ましい。
この会食は官邸と自民党が対立した道路特定財源見直しで、玉虫色ながら合意をみたことで安倍首相が招いた。実は立て役者は中川政調会長。もともと見直し反対論者だった中川政調会長だったが、盟友の安倍首相が窮地におちいるとみて、素早く動いて玉虫色で党内を押さえ、官邸と自民党の両方を納得させている。古い自民党流の手法といわれても仕方ないが、これで安倍首相は救われた。
政策決定は正式の会議でやればいいという筋論もあるだろう。だが筋だけでは人間社会は動かない。今の党三役の間では水も漏らさない密な関係が構築されている様にも思えない。何かギクシャクしている。また中川幹事長と参院執行部の間では不協和音すら聞こえてくる。それが郵政造反議員の復党問題でマイナスに働き思わぬ時間がかかった。甲論乙駁がでて、世論の注目・批判を浴びている。
安倍首相は当初、麻生外相の幹事長起用を考えていたという。中川氏は内閣の経済閣僚に起用という噂があった。それを押しとどめたのは青木参院議員会長と森元首相だというが、それにしてはこのところ青木、森の中川批判が露骨ななのはどういうわけか。中川幹事長が青木、森のところに足繁く通う場面もみたことがない。復党問題の処理をみて青木、森は、すでに中川幹事長離れをみせたと私は思っている。
二人の中川が復党問題と道路特定財源見直し問題で違った対応をみせた。困難な課題の処理はスピードが決め手になる。石橋を叩いて渡り、世論を気にしながらハードルを小出しに高める手法よりも、玉虫色で素早く処理する手法が、今回は成功している。この会合後、同じホテルオークラの日本料理店「山里」で待機していた塩崎官房長官と安倍首相が会食したのが八時二十六分、この夜の安倍首相は二度も会食したことになる。「盟友の中川政調会長に助けられたよ」と安倍首相が言ったか、どうかは知るよしもない。
314 二人の中川の手法の違い 古沢襄

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