一年以上経つから国民の方が忘れているが、偉大なイエスマンと自称した武部幹事長が総選挙の街頭演説(名古屋市)で次のようなことを言っている。二〇〇五年九月九日のことである。この日、小泉首相は北海道遊説からトンボ帰り、愛知県下の半田市、日進市を駆けめぐった。泣いても笑っても二日後の投開票で小泉内閣の命運が決まる。
郵政民営化法案が参院で否決されたことを理由に衆院を解散するというのは、誰がみても無理筋。造反議員を自民党から追い出し、分裂選挙を辞さなかった小泉首相は「郵政民営化は信念だ。殺されてもいい」と悲壮感を漂わせて絶叫する。
ワンフレーズだから長い説明はない。言い出したら聞かない小泉首相のカラーそのもので、時にはナルシスト(自己陶酔者)とさえ映った。この捨て身の戦法に選挙民は酔った。大きな山が動いたのである。
偉大なイエスマンはナルシストではない。名古屋では長々と喋ったが、マスコミはナルシスト・小泉を追いかけて、武部演説の扱いは小さかった。だが、今になって武部演説を点検すると、かなり踏み込んだことを言っている。
<総選挙予測では、自民党の公認新人が七〇人ぐらい当選してくる。今までの自民党ではない。古い人たちは幸か不幸か皆造反して出ていってくれた。亀井さんとか、綿貫さん、平沼さん、藤井さん。総裁候補までいなくなった。
選挙の後には民主党は大きく変わる。自民党、公明党、旧民社党の三つが一つになった方が安定する。これからは新しい憲法の制定も考えなければならない。そういうことも視野に入れている。
民主党が郵政民営化に反対するのは官公労が反対しているからだ。民間はものすごいリストラで苦労している。遅れているのは官のリストラだ。>この四日前の五日夜、小泉首相、武部幹事長、安倍幹事長代理、二階総務局長、中川国対委員長らが選挙対策本部幹部会議を開いて、総選挙の終盤情勢を分析していた。
ついでながら民主党の小沢副代表は八月二十七日の民放番組で①ベストは民主党の単独過半数、最低限でも比較第一党をとる②首班指名で小泉首相では嫌だという人を拒む必要はない③次の総選挙は早い。早ければ2007年の衆参同日選挙になる・・・と強気の発言をしている。
興味があるのは、すでに人気面ではポスト小泉の最有力候補と目されていた安倍幹事長代理が、造反議員三十七人に対立候補を擁立する小泉手法に必ずしも賛成でなかったことだ。八月十六日になって「国民に選択肢を提供する責任がある。全選挙区に公認候補を立てたい」と慎重な融和姿勢から小泉首相の方針を支持する姿勢に転じている。
小泉手法というのは、一種の劇薬によるショック療法。たまに使うから効果がある。年がら年中、劇薬を服用していたら効果が薄れてくる。小泉劇場も同じシーンを見せ続けられたら観客が飽きてくる。
参院選対策で武部幹事長の党執行部主導型に反対した青木・片山参院執行部を”抵抗勢力”に見立てて「総選挙の夢よ、もう一度」という小泉劇場の再来を目論むのは、あまり賢明な選択肢とはいえない。さて、劇薬を使わずに参院選を乗り切るつもりの安倍首相の打つ手は、どうなのか?
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