九日に平壌入りした山崎拓前副総裁の動向が分からない。五日間程度滞在して十四日の日曜日には北京経由で帰国するとみられていたが、宋日昊・日朝国交正常化交渉担当大使と会った様子もない。すでに四日間、平壌市内のホテルでイライラしながら無為に毎日を過ごしているのだろうか。
平壌には共同通信社の支局が開設されているが、ウンとスンともいってこない。宋日昊と会うことは、さして難しい話ではない筈だが、金正日総書記に会わせろとねばっているのだろうか。もっとも金正日と仮に会ったところで、核保有問題で北朝鮮が譲歩する見通しはない。
山崎氏は二〇〇四年四月に中国の大連で、当時の鄭泰和・日朝国交正常化交渉担当大使と会談したことがある。この会談には北朝鮮側から宋日昊外務省副局長が出席、日本側からは平沢勝栄衆院議員が拉致議連事務局長の資格で同席した。
会談は二日間にわたったが、山崎氏は「関西方面で講演」平沢氏は「都内の病院で検査入院」という隠密行動をとっていた。この大連会談で拉致問題が進展したかというとそうではない。鄭泰和は平壌での日本人記者団に対して、山崎氏らが拉致被害者家族八人を無条件で帰すと北朝鮮が示唆したという点に触れて「事実ではない」と否定している。
さらに山崎氏との接触について「日本側からの申し入れだった」と暴露した。その一方で「日朝関係全般について深い議論をした。今後の関係改善に肯定的に作用すると信じる」とも言っている。
今回の山崎訪朝は、鄭泰和・宋日昊のパイプと見て良いだろう。大連会談は拉致問題が主なテーマだったが、今回は核保有問題がテーマであろう。だが米朝間のテーマであるだけに山崎氏にとって荷が重すぎるのではないか。
大連会談後、拉致議連・救う会・家族会の三団体は、拉致救出は正式な外交ルートを通じて行うべきだと山崎氏の行動に猛反発している。とくに平沢氏に対する批判が高まり、拉致議連事務局長から退くことになった。
山崎氏は今度の訪朝で具体的な成果が得られなくとも、北朝鮮側から譲歩の感触を掴んで、第三次小泉訪朝につなげ、かつてのカーター訪朝の様に劇的な北朝鮮の転換を思い描いているのだろうが、日本政界の根回しならいざ知らず、北朝鮮という鎖国的国家にこの手法が通用するだろうか。今夜も平壌で眠れない夜を山崎氏は過ごしているのかもしれない。
372 山崎氏、平壌で眠れない夜を 古沢襄

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