小さなニュースかもしれないが、トルコのイスタンブールでアルメニア系トルコ人のジャーナリストが狙撃されて亡くなった。トルコ民族主義者の犯行とみられる。西側からみればイスラム・トルコの不気味さに嫌悪感を持つ出来事ではないか。
トルコ領東アナトリアのドーウバヤズットの北に旧約聖書でノアの箱船が漂着したという伝説のアララト山が聳えている。日本の富士山に似た山の姿をみせるが、アルメニアの首都エレバンからみたアララト山の方が神秘的で美しいともいう。(アララト山風景)
モスクワ在住の山田みどりさんは、モスクワの街角でみかける美女のほとんどがアルメニア系という。「若い時のエリザベス・テーラーそっくりの美女がモスクワを闊歩している」とも言っていた。
敗戦後、間もない時にマーヴィン・ルロイ監督の「若草物語」を新宿の映画館でみたことがある。エリザベス・テイラーの初演だったのではないかと思うが、その美しさよりも、豊かな米国の生活と明日の食事にも窮している日本の生活を較べて、ため息をつくばかりであった。
トルコとアルメニアは憎悪の歴史ではないか。イスラム教とキリスト教の相克というより、もっと根が深い歴史的な憎しみがある気がする。アルメニアの起源は紀元前九世紀にアララト山周辺に出現したウラルトウ帝国まで遡る。紀元前一世紀にアルメニア国家が成立してキリスト教が国教となった。
十一世紀になってビザンチンに征服され、十三世紀にはモンゴルによって支配された。十七世紀以降はトルコに服属して、アルメニアのキリスト教徒は迫害と虐殺を受けている。多くのアルメニア人は亡国の民と化して世界各地に逃れている。世界的な名指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンはアルメニア人の末裔。
アルメニアは四月二十四日を「虐殺の犠牲者の記念日」と定めている。一九一五年から一九二二年にかけてのトルコ政府による虐殺を忘れない怨念の日となっている。この時の犠牲者は第二次世界大戦でナチス・ドイツに虐殺されたユダヤ人を遙かに上回り、百五十万人に達したという。
トルコは当然のことながら、これを否定して、アルメニア人虐殺を国内で口にしたり、記事化すれば「国家侮辱罪」で逮捕され、起訴される。殺害されたアルメニア系トルコ人のジャーナリストも国家侮辱罪で起訴され有罪判決を受けていた。
だが、これに屈せずに言論活動をしていた。新聞社のビルを出たところ、犯人から銃で頭や首を撃たれ、即死状態だったという。トルコ政府が犯人を逮捕せずに放っておけば、トルコの欧州連合(EU)加盟は、より困難になるのではないか。その意味では決して小さなニュースではない。
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