389 コーヒー店撤去の民族主義? 古沢襄

中国の北京・紫禁城にある故宮博物院の中で営業している米スターバックス・コーヒーのチェーン店が、「中国の伝統・文化を踏みにじっている」と撤去を求める声があがっているという。面妖なことではないか。行き過ぎた民族主義的傾向は頂けない。
北京オリンピックで訪中する外国人の中で万里の長城や故宮博物院を見学する人も多かろう。コーヒー店で一息入れることも必要でないか。コーヒー店があったからといって、中国の伝統・文化が損なわれるものではない。
私は四十年前に台湾の國立故宮博物院を見学した。当時は台北市郊外の殺風景な野原にポッンと故宮博物院が立つだけであった。最近、台湾からきた人は「今では周辺に高級住宅がビッシリ建っています」と驚いていた。ここは本格的に見学すれば最低でも二、三日間はかかる。約七十万点の所蔵品があるからだ。駆け足で見学するはめとなったが、途中でコーヒーぐらいは飲みたいと思った。野原の中の一軒家?ではそれも出来なかった。(四十年前の國立故宮博物院)

ロンドンの大英博物館の中にはコーヒーや紅茶だけでなく、軽食をとれるショップがあった。立ち飲み、立ち食いなのだが、一息入れることができた。観客のことを考えれば、これくらいのサービスは当然であろう。それが常識というものだ。(大英博物館のロゼッタ・ストーン)

台湾の故宮博物院には、ことし一月に初の女性博物院長・林曼麗女史が誕生している。林院長は東京大学で芸術教育を専攻して博士号を取得しだけあって、国際的な感覚がある。さらには海外からの観光客が訪れるので、女性らしい細やかさでレストランのサービスやガイド・サービスに力を入れている。
中国も林院長を見慣ならえとは言わないが、アジアの大国としての雅量を持つべきではないか。コーヒー店ひとつで中国の伝統文化を踏みにじっていると大上段に振りかぶるのはどうかと思う。せっかく作ってあるコーヒー店を撤去しようという発想自体が可笑しい。まさかスターバックス・コーヒーが米帝国主義の手先と思っているのではあるまい。

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