400 失言男の渡辺美智雄元副総理 古沢襄

一人の閣僚の愚かな発言が野党に絶好の攻撃材料になるのは珍しいことではない。この発言が失言なのか、本心なのかといえば、いくら愚かな閣僚であっても本心ではあるまい。本心なら、そういう認識を持っている閣僚を任命した安倍首相の不明が、問われねばならぬ。トカゲの尻尾切りの様に柳沢厚生労働相の罷免で済む問題ではなくなる。
失言を連発した政治家は故渡辺美智雄元副総理。渡辺一族とは家族ぐるみの付き合いがあったので、よく知っているが、庶民政治家を自負するあまり、分かり安い比喩をしようとして数々の問題発言をしてしまった。マスコミに叩かれて頭をかかえる姿を目撃することが再三あったがいずれも後の祭り。
だが根が好人物であったから批判の嵐が過ぎ去ると、それ以上の”おおごと”にはならなかった。そこで気を許して、また失言をする。赤坂のTBS近くのトンカツ屋で頭をかかえる姿をみて「何と懲りない男なのか」とあきれたものである。ミッチーの従弟とは学生時代からの旧友だったので、二人で意見したこともある。
意見をしながら、しよげかえるミッチーをみて憎めない男だなと思った。経済・財政政策では大蔵官僚の考え方よりも、民間経済重視のミッチー政策の方に魅力がある。不遇時代には行商までやった実体験からくる政策提言を持っていた。対米政策もアメリカ一辺倒ではない。東南アジアの後進国に対するODA支援に熱を入れている。やはり得難い政治家であった。
今、一番責任を感じて苦しんでいるのは柳沢厚生労働相であろう。責任をとって辞任したいとまで思い詰めているフシがある。小沢民主党ら野党はあと一押しで柳沢辞任に追い込めると勢いづいている。与党の中にも、これ以上おおごとにならないうちに柳沢辞任で幕をひきたいという意見も出ている。
しかし柳沢辞任で幕ひきになる保証はどこにもない。むしろ安倍内閣が総崩れになる突破口になりかねない。去るも地獄、残るも地獄ではないか。ことしは地方選挙、参院選挙を控えた”選挙の年”である。満身創痍となった安倍首相の下で選挙戦が戦えるであろうか。当の柳沢厚生労働相が、このことを一番よく知っているであろう。眠れない夜が続いている筈だ。
死中に活を求めるとすれば、悲願である憲法改正の手続きを定める国民投票案を強行採決してでも成立させて内閣総辞職することではないか。安倍内閣は期間は短くても、前国会で改正教育基本法と防衛庁の省昇格関連法という小泉内閣が出来なかった懸案を成立させている。このほか①改正テロ対策特別措置法②地方分権改革推進法③改正貸金業規制法④改正官製談合防止法(議員立法)などの重要法案も日の目をみた。国民投票法案を成立させれば一応の目的はほぼ達成できる。
内閣は長きをもって尊しというものではあるまい。決断と実行で名を残せば、いずれ再登板のチャンスも来よう。その覚悟が安倍首相にあるかということになる。祖父の岸首相は日米安保条約の改定で、野党や自民党の河野一郎らの反対を押し切って、強行による強行で改定条約を成立させて退陣の道を選んだ。
世論の猛反発を受け、権力亡者の悪名を残したが、日米安保条約の改定によって日米関係が新しい世紀を開き、その後の日本の経済発展につながったと私は思っている。これだけガタがきた安倍内閣だから、今の閣僚から後継者を求めるのは難しかろう。閣外にある福田元官房長官か谷垣前財務相あるいは小泉前首相の再登板で参院選に臨むピンチヒッターとなるかもしれない。ズルズルと当面を糊塗するやり方で、さらに追い詰められるのは愚策中の愚策になるのではないか。

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