政治漫画で描くとすれば、韓国が鞭で日本の尻を叩き「北朝鮮を支援しろ!」と喚く。中国とロシアは、どういうわけか日本に同情的である。米国は逃げ腰という”日本孤立図”となろう。さらに付け加えるなら、形勢を見てとった国内では、北朝鮮に媚びを売る者が大手を振って闊歩し、拉致家族は隅に追いやられて不安げということだろうか。
その横で安倍首相は底の見えない穴を目がけて急降下、足について離れない”錘”は久間さんと柳沢さん。だが、お隣で民主党の小沢代表が、安倍さんとお手てを繋いで仲良く降下してくれている。遠くの方から小泉さんが「小沢クンを大事にしろよ!」とウチワ片手に安倍さんを応援。
新聞やテレビの解説よりも、一枚の政治漫画は方が遙かに分かり安い。ナンセンス漫画もお色気漫画もよいが、やはり政治漫画が面白い。戦後の政治漫画の大御所は読売新聞を舞台とした近藤日出造氏と毎日新聞を舞台にした那須良輔氏ではないか。お二人とも戦前からの漫画家だが、似顔絵を描かせたら右にでる人はいなかった。朝日新聞の清水崑氏は政治漫画よりも「清水崑かっぱの世界」でむしろ有名だった。
那須良輔氏は一九八五年に「漫画家生活五〇年」を発刊している。横山隆一氏や近藤日出造氏と親しかった那須良輔氏は「岡本一平流派の政治漫画が、戦後、清水崑氏によって開花した。第一次吉田内閣から片山内閣にかけて、崑ちゃんの政界漫画が朝日の第一面をにぎわした。同じ(一平流派の)近藤さんも読売新聞に負けずに描きだした」と述べている。
「横山隆ちゃんのスイセンで私も毎日新聞に政治漫画を描きだした。一平先生のたくましいデッサン力のある似顔も大好きだが、イギリスのダビッド・ローの絵が好きだった」と那須良輔氏は言っている。清水崑、近藤日出造両氏の似顔絵と那須良輔氏のそれは、チト違うという感じがあったが、岡本一平の影響が少なかったためかもしれない。
吉田内閣から鳩山内閣に代わって政治漫画が一時、低迷期を迎えた。一平流の、政界人を常にたずね、政治家の裏面を探るという勉強の仕方に、当の漫画家たちがギワクを持ちだしたという。あれほど政治漫画に熱をいれていた清水崑氏が、ピタリと描かなくなった。
「崑ちゃんは人間世界を嫌って、河童の国に逃げてしまった」と那須良輔氏は回顧していた。政界の派閥や似顔絵ばかりを追求してきた一平流の政界漫画に新風を吹き込んだのは「横山泰ちゃんの社会戯評」だという。それまでの政治漫画は毛筆で描かれていたが、横山泰三の政治漫画は、鋭いペン描きで、ぐっとくだけた表現を使っている。
だが、一時は流行した泰ちゃん流の社会風刺もマンネリ化して数年で消えていった。そして代わって登場してきたのが、古くさい一平流の政界漫画。政治漫画が空回りしても、政界の方は旧態依然として変わらない。漫画家を目指す新人たちも、似顔絵や政治漫画には関心を持たない時代になった。
那須良輔氏は「漫画家生活五〇年」を発刊して間もない平成元年に亡くなったが、日本の政治漫画について次のことを言い遺している。
①政治風刺ではアメリカもフランスも、新聞・雑誌で漫画に広いスペースを与えているのはうらやましい。今の日本の政治漫画は、狭い檻の中に閉じこめられて、鋭い牙をもがれた感じがしてならない。
②イギリスは風刺漫画の先進国だけあって、王室を自由に作品の対象にしているし、王室もユーモアを介して、国民と手を握っている明朗さがうかがえる。皇室に関してはなにかと垣がある。
③これからの政治漫画は国内政治よりも国際的な視野でアイディアをとらえるのが面白いと思う。国際情勢の推移と共にこれからの政治漫画のモチーフとして多くの話題を提供してくれるだろう。
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