コンドリーザ・ライスはいえば、冷徹なオフェンシブ・リアリスト(攻撃的現実主義者)で、人権擁護でも一歩も退かない女性との評価が高かったが、北朝鮮に対する妥協で名声を一気に落としてしまった観がある。
一時は”ネオコンと同類”と言われていたこともあったが、その時の方が生彩があった。昨年の十月、北朝鮮が核実験した直後に来日して、安倍首相との会談で北朝鮮への制裁と日米同盟強化を毅然として確認している。僅か三、四ヶ月の間に何があったのだろうか。
ライス主導だという米朝和解のシナリオは、米民主党の人権派からも不評を買うし、ボルトン前国連大使ら共和党右派からも攻撃されている。頭脳明晰なライス女史は国務長官に就任してからは、どうも迫力を欠いて生彩がない。
ライス女史をよく知る人は「誰からも批判されたことがないライス教授が、このところ米上下両院の公聴会などで遠慮会釈なく吊し上げにあって、方向探知器が狂ってしまったらしい」という。出来過ぎた話のようにも思えるが、秀才型の人にはナタのような強靱さがない。カミソリだから切れ味は良いが、ポキンと折れ安い。
頭脳明晰だから米朝和解のシナリオには、二段階の歯止めをかけて、六〇日たっても核廃棄に北朝鮮が誠意をみせなければ、米国は元の厳しい制裁に戻るという仕掛けを作っている。だが秀才の作文を読まされている感じがしてならない。外交は作文通りにはいかないものである。
ライス教授だけでない。米国務省の外交力が低下しているのではないか。米ソ冷戦時代の米外交力は、軍事力が背景にあったとしても、キッシンジャー外交のような強かさがあった。ソ連が崩壊して、超大国アメリカが一人勝ちの国際情勢が生まれると、国務省よりも国防総省の発言力が強まったと思う。
超大国アメリカの軍事力にものを言わせれば、押したり退いたりの外交力などは面倒くさい。国連よりも有志連合で突っ走る傾向が生まれた。ラムズフェルド国防長官が強くて、穏健派のパウエル国務長官が後退するシーンも見せつけられた。
その軍事力一辺倒のイラク政策が破綻したのだから、ラムズフェルド国防長官が退いたのは当然としても、迫力を欠いたライス女史にも重荷となった。イラクも、イランも、北朝鮮も同時解決というわけにはいかない。
イラクには米兵の増派という手を打った。北朝鮮には韓国と中国という応援団がついている。ここは核保有の危険性が濃厚なイラン対策に集中するというシナリオをライス女史が描いたとしても不思議ではない。
バランス・オブ・パワーを破壊しようとする勢力には、当然に武力行使も選択肢に入れた対応をしなければならないとするライス戦略論からすれば、イランに対する限定武力行使も想定の範囲にあるという。米マスコミにもイランに対する攻撃の可能性に触れるものが増えている、
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