北朝鮮による拉致問題の解決は手詰まり状態になったのは否めない現実であろう。四年前の日朝首脳会談における「五人生存、八人死亡」の線から事態は一歩も動いていない。日本が経済制裁を加えれば、北朝鮮が譲歩するという望みも通用しなかった。その経済制裁の輪も米朝和解の動きがでて一角が崩れようとしている。
拉致の家族会の中には「安倍首相は拉致を食いものにしている」と八つ当たり気味の発言すら出ている。小泉前首相が二度目の訪朝から帰国した時に、弱腰外交だと家族会からつるし上げに会ったこともある。これには多くの国民が眉をひそめた。
「頂門の一針」(渡部亮次郎氏主宰)で山堂コラムが次のように言っている。<拉致問題が重要だというのは分かる。しかし北朝鮮問題で愁眉の急は何と言っても核とミサイルだ。日本に狙いを定めているとすれば、一発打ち込まれただけで、21世紀・大東亜戦争の勃発だ。拉致どころの比ではない。日本だってかつて「真珠湾」をやった。同じテンション(天孫?)民族である。やりかねないということ、ゆめ忘れてはならない。>・・・これが大方の国民感情であろう。
拉致問題は手詰まり状態どころか、ひとつの岐路に立たされている。七、八両日にハノイで開かれる「日朝国交正常化に関する作業部会」で、日本政府代表の原口幸市・日朝国交正常化交渉担当大使は、拉致問題の解決なしには国交正常化はあり得ないと強く主張するであろう。
だが北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使は、拉致問題は解決ずみという線を譲らず、むしろ日本の経済制裁の解除を求めてくるのは間違いない。両者の間には、折り合う余地はない。交渉が暗礁に乗り上げれば、山崎自民党前副総裁の再訪朝というハプニングも招きかねない。
少なくとも北朝鮮は一枚岩で日本に当たってきている。その時に日本側がバラバラに割れている印象を与えるのは、外交上も得策ではない。「安倍首相は拉致を食いものにしている」という不規則発言などは厳に慎むべきではないか。非難すべきは北朝鮮であって、その点を間違えてはならぬ。
山堂コラムがいう「(ノドンミサイルが)一発打ち込まれたら、拉致どころの比ではない」とうのは、拉致家族にとって神経を逆撫でされる思いがあろうが事実である。作業部会では敵対的なノドンミサイルの撤去を強く要求する必要がある。日本全土を射程距離におさめたノドンミサイルが存在するかぎり国交正常化などあり得ない。
「拉致の安倍」も結構なことだと思うが、一国の首相として「ノドンミサイルの脅威除去」の方にも力を注ぐ必要がある。その強い姿勢が手詰まり状態にある拉致問題の扉を押し開くことになるのではないか。
455 手詰まり状態の拉致問題 古沢襄

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