アメリカのマイケル・ヘイデン米中央情報局(CIA)局長がひそかに韓国を訪れている。1994年の米朝衝突危機の時も前年にジェイムズ・ウルジー米CIA局長がひそかに韓国を訪れていた。
韓国国防省と国家情報院当局者らと北朝鮮分析の情報交換を行ったものとみられる。以前にも指摘したが、米国は偵察衛星・交信電波のキャッチなどを使ったハード面での情報収集は優れている。偵察衛星で地上のマッチ箱まで鮮明に解析できるという。この極秘情報を韓国側に伝えたのであろう。
だが目に見える情報のキャッチに優れているアメリカも目に見えない人的な情報では、日本や韓国の情報収集には及ばない。日本の場合には朝鮮総連を通した情報分析で定評がある。
韓国は脱北してくる朝鮮人民軍の幹部を訊問して得られる情報の確度が高い。代表的な例は1993年8月11日に亡命してきた林永宣(いむよんそん)中尉のノドン・ミサイル情報。林中尉は人民武力部軍事建設局(通称583部隊)に所属して、連隊の監視・保全に当たる警備小隊長であった。
ノドン・ミサイルはすでに完成し、日本攻撃の飛距離を保っている。ミサイル発射基地の咸鏡北道花台と江原道文川の二基地が完成、さらに江原道元山と慈江道中江の二基地を建設中という驚愕すべき情報をもたらした。すでに咸鏡南道蘆洞(のどん)の試射場で発射実験も行われていた。
韓国を攻撃するのは射程400キロのスカッド・ミサイルで足りるが、射程1000キロ以上のノドン・ミサイルは明らかに日本攻撃のものである。ノドン・ミサイルに注目したのはイラン。イランからイスラエルまでの距離が1000キロなことから、イランは早速、マンテクエイ准将をを団長とする代表団を平壌に送り込んでいる。
ノドン・ミサイルは日本攻撃だけでなくて、イランのイスラエル攻撃の面でも見逃せない重要情報となった。林中尉情報は世界を震撼させるトップシークレット情報だったわけである。四つの基地はすでに完成して、北朝鮮が保有するノドン・ミサイルは200基といわれる。
アメリカのCIA情報の確度は、かなり低下している。イラク戦争の開戦理由となったイラクの大量破壊兵器保有の情報分析を誤っている。情報活動は①ヒューミント(ヒューマン・インテリジェンス)②コミント(コミュニケーション・インテリジェンス)③エリント(エレクトロニクス・インテリジェンス)の三要素が欠かせないのだが、カーター政権以降ヒューミントが嫌われ、マスコミ対策、ハイテクに依存するコミントとエリントに重点が置かれている。
この結果、人的なスパイ活動が敬遠され、予算も大幅にカットされたことから、優秀な情報部員が続々とCIAを去った。少なくとも北朝鮮情報に関するかぎり、日本と韓国のヒューミントの方が優れている。その反面、日本と韓国のエリントは弱体といえよう。
ソウルにおける米韓情報当局の情報交換は、このような目でみておく必要がある。ヘイデン局長はアメリカでも代表的な知韓派といわれている。韓国が持つヒューミントには強い関心があるとされているので、どのような情報判断をするのか、日本としても注目しておく必要がある。
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