NHKの朝ドラ「どんど晴れ」の滑り出しは、視聴率が低いらしいが、私は欠かさず見ている。舞台が岩手県の旧家の旅館ということもあるが、土蔵の中で「ザシキワラシ」が出たからだ。
数年前のことになるが、知人のご夫婦に連れられて、柳田国男氏の「遠野物語」の里に行った。山村の民俗的世界である遠野物語は、評判のわりに読まれない本のひとつ。文語体なので、文学部の学生からも敬遠されているという。
だからザシキワラシといっても、何のことか分からない人が多いのではないか。朝ドラの主人公となる女性は、ザシキワラシの精霊が宿る。それを見たのは、大女将の草笛光子さんと南部鉄器職人の長門裕之さんという設定になった。
ザシキワラシは北上山地を中心とした地域で信じられている。旧家に住む精霊のことだが、座敷だけでなく蔵の中にも出ることから「クラワラシ」とも呼ばれている。ザシキワラシが住んでいる家は栄えると信じられている。
遠野物語の「ザシキワラシ」を口語体にしたものがある。
<旧家にはザシキワラシという神様が住んでいることがあり、その数も少なくありません。このザシキワラシの多くは、十二、三歳ぐらいの童子で、ときたま人に姿を見せることがあります。
先日も今淵勘十郎という家で、そのザシキワラシが姿を見せました。娘が廊下を出たところで、ばったりとザシキワラシに行き会い、たいへんびっくりしたことがありました。
また、同じ村の佐々木氏の家でも、そんな話がありました。母親がひとりで縫い物をしていますと、次の間でガサガサという、聞きなれない音がしました。そうっと板戸を開いてみましたが、人影もなくあたりは静かでした。
今度はまた、しきりに鼻を鳴らす音が聞こえてきました。母親はザシキワラシだと合点しました。この家にザシキワラシが住みついていることは、かなり前から村人のうわさになっていたからです。
このザシキワラシの宿ってくださる家は、名誉も財産も思いのままだといわれています。>
遠野物語は、このような山神や山人の伝説物語がたくさん散りばめられている。東北の奥羽山地でも似た伝説物語がある。日本人は、山や川、森や田畑などに宿る神を信仰してきた民族である。霊魂に対する信仰心を「アニミズムの世界」というが、自然におそれを抱き、自然を大切にするのが、日本の伝統文化だった。
「どんど晴れ」で大女将を演じる草笛光子さんは、さすがに大女優の風格をみせる。西和賀町に住む陶芸家・土楽エ門さんの夫人が知り合いで、数年前に盛岡にきたという話を聞いた記憶がある。
明るくメゲない主人公の近代女性を演じる比嘉愛未さんは沖縄生まれ。これから盛岡の老舗旅館で仲居修行をする苦労物語が始まるという。ザシキワラシのことが分かれば、追々視聴率があがると応援しているのだが・・・。
コメント
NHKによれば、タイトル「どんど晴れ」は、民話の最後に使う「どんどはれ(めで
たしめでたしの意味)」という言葉と、岩手の広く晴れ渡る空のイメージから取った
といいます。
民話の世界では、人間本来の感情をむき出しにし、ぶつかり合うことで、最後に「ど
んどはれ」が訪れます。
行く先々でつらいことや苦しいことがたくさん待ち受けているヒロイン・夏美。そん
なヒロインの活躍は、豊かな伝統と雄大な自然を舞台に、民話のエピソードを象徴的
に絡めながら描かれます。
そして、困難とぶつかりあいながらも、太陽のように周りを明るく照らす夏美の頑張
りによって、物語は「どんど晴れ」を迎えるというストーリー。