679 679 世界市場を徘徊する投機資金 宮崎正弘

▼ペトロダラーの”謎の一端”が判明
オイルダラーという正体不明のファンドが世界市場を掻き荒らしている。
すでに70年代の石油ショックの頃から盛名を馳せたが、実態は曖昧模糊としており、精密に正確に詳細を捉えた分析にはなかなかお目にかかれなかった。
いったい幾らの金額が、どのような運用方針で回転されているのか?
 
基本的には資産運用を預かるスイス銀行系が口が堅いこと。第二には欧米系プライベートバンクもなかなか手の内を明かさず、ましてやヘッジファンドは謎だらけ、かれらは奇襲をかけて相場を動かすのが商売だからだ。
昨今の原油価格の値上がりによって、またまた石油資本は肥って運用資産を膨張させた。そのうちのかなりの金額がヘッジファンドに投入された。
 
「国際金融研究所」の推測では世界に流れ出しているオイルダラーの全体は把握できないものの、湾岸六カ国の投資は合計5420億ドル(邦貨換算で65兆円)。このうち55%の3000億ドルが米国に投資されている。18%の百億ドル内外がEU諸国へ。
湾岸六カ国とはサウジ、クエート、オマーン、バーレイン、カタール、UEAである。
原油輸出総額は一兆五千億ドル、このうち一兆ドルが消費に廻り、輸入プラス諸国の経済インフラ建設、摩天楼、高速道路、豪華ホテル、そして国民の福祉にカネが向かう。
残り5000億ドルが諸外国の金融市場で運用されている余剰資金と見られる。
中東の財閥の性格は中国人と似ていて安定的で確実な投資(たとえば米国国債など)よりも、もっと値動きの激しい株を狙う。これらをヘッジファンドと大手投資銀行が斡旋する私募債に回している。
なにしろ謎だらけ、アラブの鷹は、財産を公開したり運用先を人にしゃべったりはしない。
「結局、国際金融研究所は”公開された”数字データから推測作業を進めた。米国は財務省が国債の保有を国家別に統計を出す。BISは世界の銀行の運用を厳密に調べる。
その結果、判明したアラブ資金の新しい目標がEUの企業買収資金に投下されている実態が分かった」(英誌『エコノミスト』、07年6月9日号)。
アジアへの資金流入は、これまで言われたほど顕著ではなく、とくに中国株に大量に投下された形跡は発見しにくいという。
▼国家それ事態の投機機関
もっとも有名なのはサウジの国家投資機関だが、シンガポールの「テマサク」も極め付きの投資効率のよさで有名。石油精製など将来性のある企業へ投資し、配当をとる。
これを真似た中国が国家投資機関を作った。あり余る外貨準備の一部を割いて、いきなり米国の禿鷹ファンドで知られる「ブラックストーン」に中国が30億ドルの出資を決めて、世界を驚かせた。
「中国の投資会社はことし3000億ドルを投資に廻す予定とされ、資源開発の頭金に多くが使われるだろうが、まず注目するべきは、米国国債の比重をユーロなどに、いかように配分し直すか、にある。」(エコノミスト、5月26日号)。
世界市場に流通しているカネのうち、こうした国家機関が運用しているのは2兆5000億ドル(ヘッジファンド総体で1兆6000億ドル)
ついでに言えば、世界株式市場の時価発行トータルは55兆ドル。公社債も同額と見積もられ、流れを変えるほどの物量を、これら国家機関が保有しているとは言えない。
 
それにしても97年にヘッジファンドがアジアの通貨危機をもたらしたように、98年にはLTCMを破産させてように、運用次第では地域的なブラックホールが産まれやすい。
現時点で中国の資産運用企業がどんな行動に出るかは予測不能だ。
逆にシンガポールの遣り方を見ておきたい。
シンガポールの国家投資機関=テマサクは運用資産1000億ドル、タイの電信電話会社を買収したときも騒がれた。なぜならテマサク買収のタイの「シン社」は、前首相のタクシン一族の企業だったから。
さらにテマサクは大胆にも「中国東方航空」への25%出資を狙っている。
そのうち日本航空も視野に?
中国は、このテマサクの投資手法を大いに参考にする方針という。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)

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