714 香織ブログのお茶話 古沢襄

私が現役時代に知っていた産経新聞と現在の産経新聞は、随分と変わったものだと一種の感慨を覚える。最初は共同OBである北京の伊藤整氏やソウルの黒田勝弘氏、毎日OBである古森義久氏の記事を読んでいたのだが、いまでは産経生抜きの阿比留瑠比氏のブログも欠かさず読んでいる。
新聞が軒並み部数を減らしている中で、産経新聞だけが着実に読者を増やしているのは注目すべき現象ではないか。産経新聞中国総局に福島香織さんという女性記者がいる。北京の銀座と呼ばれる王府井近くに一人暮らし。趣味は美食、読書、旅行、観劇。目下、中国の人口、女性、貧困、環境、ネット、言論問題などが取材上の関心事。好きな言葉は「逃げない、はればれと立ち向かう」だという。
「どんど晴れ」の北京版のような香織さんだが、送ってくる北京情報もさることながら香織ブログが多彩で面白い。ジャーナリストが新聞記事を書くだけでなく、自分のブログを持って読者を広げる時代に入った、と今更のように感慨を覚える。
香織ブログは「北京趣聞博客 (ぺきんこねたぶろぐ)」。趣聞とは、中国語で興味深い話題、噂話の総称だという。街角で拾った小ネタ、タブロイド紙の三面ネタなどを、関西風突っ込みをいれつつ愉快に紹介している。
http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/
最近の記事で教えられたのは中国茶のことであった。六月十六日の記事だが「マイ茶」を携帯する流行に触れている。全文を引用すると三回続きにでもなってしまうので、サワリの部分だけにするが、興味のある方は香織ブログを・・・。
「マイ茶」。そう、(中国では)お茶ももって行くことが多いのだ。かばんの中に自分の好きなお茶っぱを小袋にいれてもちあるき、レストランにいくと、お湯と茶碗だけかりて、自分でお茶をいれる。まあ、あまり高級なレストランでやると、怒られそうだけど、私もお茶っぱは持ち歩いている。
中国の下町レストラン、チェーンレストランで出されるタダのお茶、これが実は、ものすごく身体にわるい、と昨年夏あたりからさかんに報道されたからだ。
俗に「ゴミ茶」と呼ばれるこういうお茶は、キロあたり10元以下の超低品質茶っぱが使われ、残留農薬、殺虫剤まみれ、雑菌まみれ。しかも、味の悪さ、色の悪さを隠すため、香料と色素が添加されているケースもあるというのだ。
というわけで、今回はお茶がテーマ。日本では、数年前から中国茶ブームが続いて、値段も上がっているようだが、今回のエントリーを読んでしまうと、ブームに水をさすかも。(安全でおいしいお茶もいっぱいあるから、信頼できる店で買えば大丈夫です、たぶん)と前置きするあたりは女性らしい細やかな心遣いが感じられる。
■茶は南方の嘉木なり、と、中国茶の原稿をかくとき、ワンパターンだなあ、と思いつつ、引用せずにはおれない世界最古の茶の専門書「茶経」。茶聖と呼ばれる陸羽がまとめた同書によれば、喫茶の歴史は「神農に始まる」とされ、紀元前2700年ごろの神農氏の時代までさかのぼるという。この神農氏、中国では薬の神様とされているが、野山の百草をなめて、試して、一日に72の毒物にあたっても、お茶で解毒できることを発見したという。つまりお茶は本来「薬」としてのまれていた。陸羽によると、茶が薬とされていた時代は2500年も続くそうな。
■茶の原産地は中国(雲南省からアッサム地方あたり)で、喫茶は中国5000年の伝統文化なのだ。宋代には喫茶習慣は一般にまで広がり、明代には今の喫茶の原型が確立し、17世紀にはヨーロッパにもたらされ、19世紀には英国で習慣化。英国が中国との茶貿易赤字相殺のためにアヘンを売り込んだ。中国近代史にとって、茶は大きな副作用を伴う劇薬だったといえそうだ。
■さて今。茶は同じ薬でも、〝農薬茶〝なんて言葉が一般化しているほど中国茶の質はわるい。これは、文字通り、「農薬を飲むのと同じようなもの」の意味で使われる。中国茶を入れるとき、最初に茶っぱを洗うのは常識だ。
ちなみに、私は、中国人が最初の一杯を捨てるのは、それが中国茶のいれ方でその方がおいしいからだと思い込んでいたが、台北の友人が、阿里山の銘茶、頂凍烏龍をいれてくれたとき、「このお茶は上等だから、洗う必要がないのよ、一杯目から楽しんでください」と言っていれてくれたところをみると、やはり茶っぱを洗うのは、いれ方、作法というより、茶っぱの質の問題なのだろう。
■今年に入っても、相変わらず農薬茶、毒茶の問題は続いている。中国質量監督検査検疫総局が1月に行った北京、天津、福建省など16省市で生産されている49メーカー50種の茶っぱの抽出検査結果によると、3割が不合格で、天津産小毛尖(ジャスミン茶)、北京産春芽(ジャスミン茶)には危険な殺虫剤が残留。
■また、冒頭に引用したように、「ゴミ茶」の問題が深刻だ。中国質量万里行促進会という消費者保護団体の昨年5月ごろから啓発を続けている問題で、農薬、重金属(鉛、銅)が基準値以上にふくまれ、ゴミ、ほこり不純物、雑菌が混入されている、本来なら品質不良のゴミとして廃棄されるはずの茶、あるいは何年も倉庫に放置された古い茶。
これがレストランでタダで出てくるお茶に使われている。飲み過ぎると、中毒症状、肝臓腎臓の機能低下、神経系への悪影響が出る。「ずっとこんな茶を飲むのは慢性的自殺を図っているのと同じ」などという専門家もいるほどだ。
■茶の専門家によると、中国でまともな茶は500㌘で最低でも卸値20元はする。それがレストランのタダのお茶は500グラム3元とかの値段なのだから、まともな品質のわけがない。特に香りのついたジャスミン茶、色の濃いウーロン茶などは、あとで化学香料や染料をまぜれば、ごまかせるし、油や味の濃い料理を食べながらだと、客は茶の味に気づかないそうだ。
■さて、中国国内で問題茶がこれだけ蔓延っているわけだが、中国の茶の輸出状況はどうだろう。業界の統計では輸出全体でいえば、2006年の輸出金額は5・47億ドル(28・7万トン)で、05年の4・8億㌦より増えた。しかし、これは検疫無しの個人輸入も含まれ得いる数字ではないだろうか。税関統計では、昨年EUの検疫強化と日本のポジティブリスト導入で、それまで右肩あがりだったのに5年ぶりに減少に転じている。
■特に中国の2大茶輸出地、浙江省と福建省の対日輸出は大打撃で、昨年の浙江省の対日輸出は50%減で1万トン以下になった。浙江省のEUへの輸出は年平均6000トンだが、昨年は1250トンが残留農薬検出ではじかれてしまった。
■ウーロン茶で有名な福建省のアモイ港税関統計では、2006年の対日茶輸出は4125.352トンで、前年より859トン減少。貿易金額にして140万ドル減少した。07年1月時点で、アモイの茶貿易企業のうち80%が基準値以上の残留農薬検出により日本への輸出が禁止されている状況だ。
■中国は世界の茶貿易量の18・61%を占め、輸出量でみれば世界3位。多いといえば多いが、茶の故郷、茶文化発祥の地というイメージのわりには振るわない。この原因が、ひとえに中国茶=農薬茶のイメージのせいだとしたら、茶聖・陸羽もあの世で泣いているだろう。「日本のポジティブリスト」を逆恨みしている場合ではないよ。
■ちなみに、中国にも高級茶はたくさんあって、10グラム数十万元するような、オークションでやり取りされるようなお茶もある。おそらくそういうお茶は、農薬だとか殺虫剤とかは関係ないのだろう。
■私は別に茶通ではないが、奈良市が実家なので、地もとに近い和束(京都府相楽郡)のお茶がお気に入りだ。(今も味はかわっていないだろうか)。あと、春日大社の茶会でいただいた玉露の香気はいまだに忘れられない。やはり、日本の茶はダントツにおいしいと思う。(このみの問題ですが)
夏の朝茶、冬の夜ばなし、など日本人が本当にお茶を楽しむために費やす労力、精神力、心遣いなどはぜったい中国人にはマネできないだろうし、本当にお茶を文化として大事にしているのは、今は中国ではなくて日本だと思うのだがどうだろう。中国茶ブームもいいけど、日本人なら、日本のお茶をもっとのむべし、と改めて思うのだった。

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