723 千万人と雖(いえど)も吾往かん 伊勢雅臣

参院選が近づき、民主党の広告宣伝がテレビ放送で流れている。夜、カップラーメンをすすりながら残業しているサラリーマンの姿などが写され、最後に小沢一郎代表が「生活が、第一。」と語る。
そのセリフにどうにも違和感がある。政治の目的は国民の安寧を図ることだから、「生活が第一」なのは良いとしても、その生活とは、年金や賃金だけの問題ではない。
北朝鮮の核ミサイルが日本に飛んできたり、中国が台湾を攻撃したりしたら、たちまち現在の日本社会の安定した生活は吹っ飛んでしまう。学級崩壊、学力崩壊の「ゆとり教育」がこれ以上続いたら、子どもたちの未来の豊かな生活は奪われてしまう。
こうした本質的な「生活問題」から、目先の「生活問題」に目をそらす民主党のアプローチは、小沢氏一流の選挙戦術だろうが、それこそ自社馴れ合いの戦後体制の遺物ではないか。
安倍首相は参院選を遅らせてまで、国会会期を延長し、公務員制度改革関連法、社会保険庁改革関連法など重要法案を成立させた。野党は「年金問題の逆風が弱まるのを待つ作戦」などと批判し、それが国民の支持を得る可能性もあったが、あえて安倍首相は強行突破を図った。「国民のためにやるべきことを、ひたすらに、愚直にやっていく」と、28日付の安倍内閣メールマガジンで決意を述べていた。
安倍首相は、平成16年、幹事長の時代に、あるインタビューで次のように述べていた。
安保闘争の時、私がまだ小さかった時です。当時、南平台に私邸があって、そこにデモ隊が押しかけ、祖父は家から出られなくなった。そうすると祖父は暇になるものですから「とにかく孫を呼べ」と。我々は別のところに住んでいたんですが、知り合いの新聞記者が車で迎えに来てくれて、新聞社の社旗をたなびかせて行きますとそのまま家の中に入れた。
で、中に入ると、祖父は一緒に遊んで、馬になってくれて、私はその上に乗って、外で「安保反対、安保反対」って言っているものですから、それにリズムを合わせて、「安保反対」と言った。それを聞いて父が「安保賛成と言え」と言うと、祖父がそれを見て大笑いするという場面がありました。
大変、悠然としていた。何故、悠然としていたかというと、これはもう確固たる自信があったということなんですね。この安保改定はいつか必ず評価されると。ですから、まさに「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人と雖(いえど)も吾往かん」(Wing注:自ら省みて正しいと思ったならば、千万人が反対しても進んでいく)で、どんなことがあっても自分は屈せず前に進んでいくということを、祖父はそのまま実行したんだなと。自分も政治家としてそうありたいと、そういうふうに思いました。
当時、千万人が反対した安保条約改訂は、今日、国民の圧倒的多数の支持を得ている。中国の軍事的膨張に対して、日米同盟がなければ、今頃、日本は北京のご機嫌取りに汲々とする国になっていただろう。岸信介は安保改訂での混乱の責任をとって首相を辞任したが、その功績は歴史に輝いている。
退陣後の岸は、こう言っていた。
憲法改正、これは今後もやります。やりますけれどもなかなか私の目の黒い間にできるとは思っていない。しかし、この火を絶やしちゃいかんと思うんだ。
その「火」は、戦後の国家的宿題を片付けようとする安倍首相に受け継がれている。逆風の中の参院選、「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人と雖(いえど)も吾往かん」の心で、安倍首相は戦っているのだろう。(「国際派日本人の情報ファイル」より)

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