748 総統選挙は台湾人が勝つ 宮崎正弘

葉菊蘭女史が来日した。
彼女は鄭南容烈士の未亡人。現在、台湾の国会議員(民進党)。元高雄市長。閣僚経験者。世情では、次期総統選挙で、「副総統」候補に推されるだろう、と言われている。すでに一部の台湾マスコミは「葉菊蘭副総統候補で決定」と報道を流している。
鄭南容烈士は「台湾の三島由紀夫」と言われ、外省人ながら台湾独立に挺身し、当時制約のあった雑誌に改憲論文を掲載(その改憲試案を書いたのが現駐日大使の許世楷氏だった)、官憲が踏み込む前に事務所に火をはなって壮烈に自決した。
最愛の夫をなくした葉菊蘭は台湾政治の理想のために政治家になった。
さて謝長廷・民進党公認候補(元高雄市長)は8月15日までに副総統の候補を決めるとして党内調整に入った。
民進党の党内事情から言えば、派閥均衡、党内統一の文脈からも蘇貞昌(前首相)が有力。しかし国民党が馬英九・粛万長の正副チケットで走り出した以上、世情にもっとも人気の高い人間を選ぶことになるだろう。
7月8日、葉菊蘭女史はホテルオークラで講演した。 葉菊蘭女史の講演要旨は以下の通り。
▼台湾国民はなぜ政治に冷淡になりつつあるのか
台湾国民が政治に冷淡になったのは与野党それぞれの内部抗争に嫌気しているからだ。あの喜ばしい政権交代(2000年)のあと、なぜ新しい国家に台湾は生まれ変われなかったのか。
国民の「台湾人意識」はどう変わったのだろうか。
台湾2300万国民のうち、外省人300万人は竹の中に住む。公務員が多い。客家が400万人いるが、ホーロー語がわからない(ホーロー語とは福建語の台湾化した現地語。台湾語ともいう)。
最近、ベトナム、インドネシアからの花嫁も増え、新しい台湾人の母親にもなっている。
十八年前、私が立法委員(国会議員)となったとき、台湾人意識が薄く、自身を台湾人と認識している人は5%もいなかった。
いまでは台湾人と自己認識している国民が70%。しかし同時に中国人であると認識している国民も多い。かように台湾人のアイデンティティは複雑多様。
蒋経国も馬英九も「台湾は中国の一地方」という認識は同様で、台湾を独自の文化圏とは認識していない。
もともと日本植民地時代の抗日を通して台湾人意識が芽生え、二二八事件でクライマックスとなった。この国を守ろうというアイデンティテイが産まれた。
▼台湾も「普通のくに」をめざす
孫文を支援していたころの日米欧は、かれの中華ナショナリズムをも支援したわけではなかった。
しかし、今後台湾を正常な国家、普通のくににしてゆくためには旧敵とも『和解』しなければならない。
民進党が和解を主唱しているのは、与党としての自信であり、外省人にも手をさしのべて、政治に冷淡だった客家にも呼びかけ、台湾のために「共生しよう」と言っているのだ。
わたしは台湾政治の理想の伝道師である。
共生のあと、問題は中国である。武力による威嚇、軍事的脅威である中国といかに台湾政治は対応していくのか。民主、法治の台湾は脅威を拒絶する権利があり、わたしたちは犠牲を恐れず、この台湾の国民、生命、財産を守るべきである。正義を守るべきである。私は理想の伝道師、私心はなく、国家に尽くしたい。
多数が少数を尊重し、強者は弱者を救わなければならず、また経済成長が環境を破壊してはならず、人と人とは多元的価値を尊重し、まごころで当たらなければならない。
台湾は国際的に孤立している。
 
国際間のコミュニケーションのネットワークを確立することも台湾の安全保障に繋がる。
国連から追い出された中華民国の幻の体制を脱却し、濃い孤独感を克服し、国際社会に正義を問うべきである。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)

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