827 保守思想の三つの流れ 古沢襄

民主党が躍進した参院選の結果、自民党に代わる新しい政治勢力を期待するムードが生まれている。だが細川内閣の再現を求めるような圧倒的な支持勢力が固まりつつあるとは言い難い。安倍内閣の閣僚たちの不規則発言、不祥事に対して自民党の支持勢力の二割以上が民主党に票を投じた一種の”お灸をすえる”行動が背景にある。
私はむしろ保守の中に三つ、あるいは四つの流れが顕在化しつつある点に注目している。これは保守の理念、政策をめぐる考え方の違いで、それ自体は非難したり、怖れたりすべきものではない。むしろ健全な民主主義につきものの理念、政策の違いといえる。
これに較べて旧社会党や共産党の革新勢力は伸び悩んでいる。保守の分散化による拡大の傾向が特徴といえるのではないか。革新思想の再構築が必要ではないか。
保守層は次の三つ、あるいは四つの傾向に分かれつつある。
①ひとつは安倍首相に象徴される右傾化、新民族主義の理念の台頭であろう。憲法改正と自衛軍の強化であって、戦後レジームからの脱却がスローガンとなっている。これ自体は軍国主義、国家主義の戦前復帰思想と断じるのは、正しい理解とはいえない。どの国家でも大なり小なり右傾化、新民族主義の理念がある。むしろ、現実主義的政治の手法をとるので、理念が後退する傾向を合わせ持っている。
②第二は国民生活の利益優先という保守思想であろう。参院選では多くの有権者が、この選択をしている。右傾化、新民族主義の理念よりも、生活が第一という、言うなら一国平和主義ともいうべき素朴な国民感情であって、これ自体は当たり前といえば当たり前のことである。ただ国民福祉の増大にかかる膨大なコストを捻出する財政負担に関して具体策が問題点であろう。
③第三は米国依存から脱却してアジア中心主義に回帰する保守思想である。自民党内には少数派ながら親中国主義の流れが長く存在している。戦前にも大アジア主義があった。これは安倍首相にみられる新民族主義的傾向とは異質のものである。むしろ対立的な概念といえよう。この保守思想は、今後、増大傾向にある。
④そして第四には小泉前首相が推進した経済のグローバル化、自由競争原理の追求という保守思想がある。米国との同盟、協調を第一とし、日本という国家の経済体質を根本から変革しようとしている。その過程で格差が広がる弊害が伴うが、全体のパイを大きくし、結果的には国民全体の福祉も充実させる実験。経過措置としてセーフテイ・ネットの方策をとろうとしている。
四つの形で類型化したが、①と④はからみ合っている。三つ傾向といっても良いだろう。しかも、それぞれが単独で存在しているのではない。これも大なり小なりからみ合う。従来の派閥とは違う。
言えるのは③の親中国的なアジア中心主義と④の親米国的なグローバル化は水と油の関係にある。自民党内だけでなく民主党や国民新党を巻き込んで、二つの傾向の保守の考え方は、これからの日本の保守思想の分水嶺を形成すると思う。民主党内にもこの二つの流れが潜在的に存在している。
国民生活の利益優先というのは、自民党や民主党、国民新党にも共通する保守思想ともいえる。国民生活を無視しては政党は存在しえない。その手法に違いはあっても、目指す方向はあまり違わない。憲法改正を優先して国民生活の向上を犠牲にすることなどは、戦前の軍国主義、国家主義の時代ならいざ知らず、戦後民主主義の日本ではありえない。
だから大きく分ければ、日本の国家像を米国との同盟関係に軸足を置くか、アジアの中の日本に軸足を置くかになる。それも米国一辺倒とか中国一辺倒という単純な図式にはならない。その点で自民党内では二つの潮流が顕在化しているが、民主党内では、まだその姿がはっきり見えていない。現状では小泉手法に対する反発がみえる程度である。
来るべき総選挙では、この保守思想の違いを打ち出して雌雄を決するのが望ましい。再び不規則発言、不祥事が争点になる選挙では、まさしく日本のシェーム(恥)を世界にさらけ出すことになって、あまり生産的ではない。いつまで経っても日本は世界のローカルでしかなくなる。

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