860 山岳国家キルギスの悲哀 宮崎正弘

8月7日、中国政府は胡錦濤主席のキルギス訪問を正式に発表した。14日から18日まで。
キルギスほか、カザフスタンへ立ち寄り、ロシアに於けるSCOの共同軍事演習も視察する。
先週のキルギスの首都ビシケクは、まだ警戒態勢にはなかった。
さて、キルギスには優秀な学生が有り余っている。 
大学が多いのに、就職先がないからだ。首都のビシケクだけで十七の大学があり、いくつかの学校では日本語を教えている。キャンパスは緑豊かで敷地も広く、学生はのんびりしているかに見える。
日本にきたこともない若者が、真剣に日本語を学ぶから上達のスピードが速い。
ちょうど80年代の中国からの留学生がハングリー精神に溢れ、またたくまに日本語をマスターしたようなもの。このときの学生のなかから莫邦冨や、石平らが輩出した。
学生数はビジケクだけで、おそらく三万人以上はいるだろう、と推定される。
ところが、大学教授の月給が100ドル、助教授、講師は50ドル。これでは家庭を養えないので、大学教授は八割前後が女性なのだ。
したがって学生は卒業するとキルギスから出国し、石油・ガス景気に沸くカザフスタンへ行ってエンジニアになるか、遠くモスクワへ。或いは一部はヨーロッパ諸国へ出稼ぎにでてしまう。
せっかくの素養も技術も祖国には活かす場所が稀少だからだ。
雇用が滅法すくないため大学卒のエリートでもタクシーの運転手をしているケースが多い。偶然乗った運転手は、英語がパーフェクトで「ロシア語も喋れるけど、日本語もすこしね」と日本語で言ったのには驚いた。
この人物は「日本で防衛大臣が失言してやめただろ」と久間大臣の失言に関して質問してきた。どうしてそんなことまでしっているのか、情報通でもあるようだ。
▼知識と経済とがなぜ結び付かないのか?
また大学制度が完備しており、学費がやすいため、近隣諸国から留学にキルギスへやってくるという矛盾した現象がおきている。
英語の普及も意外と進んでおり、大学生は母国語、ロシア語のほかに、大概が英語をあやつる。
そして子沢山を自慢した遊牧民の風習は消え、小子化が起きている。ロシア人家庭は大方が一人っ子だ。
キルギスの憲法は「大統領立候補資格者はキルギス語を喋ること」となっており、これはロシア人を政治舞台から排斥するための措置(カザフ、ウズベクの同様)。
文化歴史館で偶然みたのは、シャーマニズムの残存だった。
高嶺へ登ると遊牧民の居住区では、木々におみくじに似た布を巻き付ける。シャーマニズムが、依然として遊牧の民からは深く信仰されており、考えてみればイスラムは、この現地シャーマニズムに被さって、独特の“キルギス型イスラム”をはぐくんだ。 
現地の“てるてる坊主”は、まったく日本と同じモノだった。
ちょうとイランやアゼルバイジャンで、拝火教(ゾロアスター)の伝統の飢えにイスラムの教えが被さったように。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)

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