864 民主党の政権担当能力? 古沢襄

民主党の小沢代表とトーマス・シーファー駐日米大使が、テロ対策特別措置法の延長問題で会談したが不調に終わった。予想されたことだが、この会談を小沢代表は報道陣に公開する異例の形をとったことで、落としどころを探る妥協の道を自ら閉ざした。
まさに小沢流の真骨頂なのだが、日米関係を重視するサイドからは、小沢民主党の政権担当能力に疑問符をつける声があがっている。読売新聞の社説が代表的な意見であろう。
<これでは民主党に政権担当能力はない、と判断されても仕方がないだろう。
民主党の小沢代表とトーマス・シーファー駐日米大使が、テロ対策特別措置法の延長問題をめぐって党本部で会談した。
シーファー大使は、海上自衛隊が多国籍軍への洋上給油活動を継続することに、民主党の協力を要請した。
しかし、小沢代表は「ブッシュ大統領は『これは米国の戦争だ』と、国際社会のコンセンサスを待たずに戦争を始めた」と強調した。「日本は米国中心の活動には参加できないが、国連に承認された活動には参加したい」とも語った。
国連安全保障理事会決議の承認を得ていない現在の海自の活動には反対する、という理屈のようだ。
この主張は明らかにおかしい。
海自の活動は、多国籍軍のテロ掃討作戦の一環である。2001年9月の米同時テロ後に採択された安保理決議1368に基づいている。アフガン国内で米英仏加韓など約20か国が、インド洋では日米英仏独パキスタンなど8か国の17隻がそれぞれ活動している。
テロ掃討作戦は、小沢代表が言うような「米国の戦争」ではない。国際社会による対テロ共同行動である。
小沢代表は、国連安保理決議1386に基づくアフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)への参加は可能だ、との考えを示した。
しかし、それは、日本にとって、現実的な選択肢ではあるまい。
米政府は再三、陸上自衛隊の輸送ヘリコプターのISAF派遣を打診しているが、日本側は「危険だ」と断っている。現在の海自の給油活動は、はるかに危険が小さい。国際的な評価も高く、国益に合致した人的貢献策と言える。
アフガンでは、旧支配勢力タリバンが勢いを盛り返している。国際社会の対テロ活動は、今が正念場だ。
シーファー大使は会談で、「日本の貢献は、日本と世界の治安にとって重要だ」とも指摘した。小沢代表は、日本自身が国際テロの標的とされている当事者であることを忘れたのではないか。
民主党は参院選公約で、「相互信頼に基づいた、強固で対等な日米関係」の構築を訴えた。小沢代表と大使の会談は、民主党の要請で、報道機関に全面公開された。「米国に言うべきことは言う」という姿勢を示し、民主党の存在感をアピールする狙いなのだろう。
だが、小沢代表から、日本が「国益」を踏まえてどう行動するか、という発言はなかった。極めて残念である。(2007年8月9日1時35分 読売新聞)>
シーファー駐日米大使は、報道陣に公開された会談には戸惑ったであろう。セレモニーではなく、腹を割った話し合いで小沢氏の考え方を斟酌しながら、円満な解決の道を探るつもりでいた。目の前で扉が閉ざされた感じではないか。
媚中派といわれる人たちは大いに喜んだのではないか。媚中派のみならず庶民はシーファー駐日米大使の困った顔をみて快哉を叫んだであろう。識者と庶民の間にはズレがある。シンガポール陥落の時に敵将パーシバルに「(降伏に)イエスかノウか」と迫った山下奉文軍司令官に庶民は快哉を叫んだ。
小沢代表は国民心理をうまく掴んでいる。新聞の社説・論説などは読む者がいないと高をくくっているのであろう。民主党内には前原前代表ら日米関係悪化を懸念する立場から、一定条件の下で落としどころを探る動きがあるが、それを封じる効果もある。
この頃、訪米中の小池防衛相はゲーツ国防長官と会談しているが、ゲーツ長官も参院で小沢民主党が特措法延長に反対していることの深刻さをあらためて認識したようだ。会談後「きわめて厳しい状況にあることはよく分かった」と述べている。
これらの情報はブッシュ大統領の下に直接報告されたであろう。安倍首相が強行突破してくれるというような甘い期待はうち砕かれている。衆院に回付して再採決に持ち込むには”時間切れ”の可能性が濃い。
こうなるとテロ特措法の延長は困難になったとみておいた方がいい。海上自衛隊がインド洋に派遣している艦艇は空しく帰投するであろう。それが日米の信頼関係にどのような影響を与えるか、緻密な分析が必要になる。

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