896 上海協力機構と日本 古沢襄

上海協力機構(SCO)加盟国がロシア・ウラル地方で行った軍事演習について日本の報道は少ない。連日のように小池防衛相と守屋事務次官のバトルを微に入り細にうがって報道して割りにである。ウラル地方で行われていることは日本とは関係ない、ということなのだろうか。
プーチン大統領は「あくまでテロ対策」というが、中ロを中心に約六千人の兵員が参加して、ロシアの「スホイ25」、中国の「殲10」の新鋭機が投入され、武装ヘリ、大型輸送機、兵員装甲車も加わった大演習となった。今後、毎年、定例的に軍事演習を行うという。
ヨーロッパでは北大西洋条約機構(NATO)に対抗する「軍事ブロック」の形成に上海協力機構が踏み切ったという観測が生まれて、警戒感を強めている。米国による東欧へのミサイル防衛(MD)計画の対抗措置というわけだ。
上海協力機構は2001年6月に中国の上海で設立された。中国・ロシア・カザフスタン・キルギスタン・タジキスタン・ウズベキスタンの六か国による多国間協力組織である。2002年6月にロシアのサンクト・ペテルブルグで、上海協力機構の地域対テロ機構創設に関する協定が署名された。この機構執行委員会書記局は上海、本部はキルギスの首都ビシュケクに設置されている。
注目すべきはモンゴル、インド、パキスタン、アフガニスタン、イランなどが上海協力機構に強い関心を示したことである。2004年にモンゴル、2005年にインド・パキスタン・イランが上海協力機構のオブザーバーの地位をえている。
中国・ロシア・インドといったユーラシア大陸の大国による連合体が生まれれば、国際政治に与える影響は少なくない。石油・天然ガス産出国である中央アジアの各国が参加しているから、日本にとっても対岸の火災ではない筈である。上海協力機構が”非米国色”が強いとみられることから、対米考慮もあって日本は自ら蚊帳の外にとどまる。
今回の合同軍事演習は中国西部のウルムチで作戦会議を開き、最初の演習はロシア中部チェリャビンスクで開始されて、最終日にロシア・ウラル地方の大規模演習になった。ロシア国防省筋は「上海協力機構が政治、経済的なブロックにとどまらず、NATOに対抗する軍事ブロックに発展するきっかけになる」とみている。ロシアのタス通信は、戦略爆撃機による長距離訓練を再開したことを明らかにし、七つの基地から十四機の戦略爆撃機が発進している。
日米同盟をみても分かるが、それが政治、経済的分野に止まっているかぎり同盟関係は緩やかで、時には激しい貿易戦争すら生じる。しかし固い軍事同盟が備わると同盟関係が強固となる。
中央アジアの豊富な石油・天然ガスをめぐって世界は熱い眼を注いでいるが、ロシア、中国の狙いはそこにある。カザフスタン・キルギスタン・タジキスタン・ウズベキスタンを取り込むことが、合同軍事演習の真の目的ではないか。ヨーロッパのように単純なNATOに対抗する「軍事ブロック」と即断してしまうのは、どうなのであろうか。
米国がイラクの泥沼に足を取られている間に上海協力機構が形を整えつつある。日本も中央アジアの豊富な石油・天然ガスの獲得競争に加わっている。対米考慮をすれば、上海協力機構に媚びを売るわけにはいくまい。個別に各国との友好親善関係を強化するしか道はない。その視点で安倍首相のインド訪問をみておく必要がある。それとも”生活が第一”の夢を見続けることなのだろうか。

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