知日派の在米研究者、リチャードJ・サミュエルズ著「日本の防衛:東京の戦略大綱と東アジアの将来」(コーネル防衛研究所)がこの8月に米国で出版された。版元のコーネル大学出版局のサイトに書評が掲載されていたので抄訳する。
http://www.cornellpress.cornell.edu/cup_detail.taf?ti_id=4739
過去60年間、米国政府は日本の防衛政策がアジアにおけるアメリカの利益を補強するものと想定してきた。しかし、アジアの政治的かつ軍事的な情況は急変している。
北朝鮮の核開発計画、中国の台頭、そして米国の大国としての相対的な衰退は、ワシントンと同様に東京でも戦略的な見直しを求めている。日本の防衛政策の次のステップは何か?
米国との国益(の共有)と同盟の合意はこれからも有効なのか。防衛方針は変わるのか? あるいは日本はより自主独立的防衛になるのか?
著者のリチャードJ・サミュエルズは、この10年間で、日本の政策担当者のなかで修正・見直し(訳者注:戦後レジームからの脱却)派のグループが力を強めたことを明らかにする。
2000年代前半の小泉政権は、日本の軍隊を世界的な安全保障の役割を演ずる方向へ大胆なステップをとった。それは、後継者の安倍政権のもとで、日本の新しい戦略大綱の策定、(訳者注:憲法改正や集団的自衛権をめぐる法解釈の変更、法律整備など)合法化へと向かい、国内および地域で活発な論議を呼んでいる。
「日本の防衛」は、日本の壮大な戦略大綱の歴史をたどることから始めている。富国強兵を掲げた明治の為政者から、第二次世界大戦で日本の敗北につながっていった近衛内閣の合意(訳者注:大東亜新秩序と国防国家の建設方針をうたった「基本国策要綱」)、戦後のアメリカとの同盟関係を明らかにする。
サミュエルズは、これらの戦争と協定の中のイデオロギーの変遷を追うことが、今日の議論を理解するのいかに有効かを示している。そして彼は、日本の最近の戦略的な選択を調べ、日本が究極的には、国力と独立国家としての主権、地位をバランス良く持つことになるだろうと主張する。「米国への過度の依存、あるいは中国からの脅威に対する脆弱性を克服することで安全保障を得られるだろう」と指摘する。
日本の歴史、社会、政治に対するサミュエルズの洞察は、優れた職歴にわたって磨かれ、政策担当者へのインタビューやオリジナル資料の研究によって裏打ちされ、濃い内容に結実している。「日本の防衛」は、日本の国防政策にかかわる決定的なアセスメント評価であり、東アジアの将来を示唆している。
<読者レビュー>
「リチャードJ・サミュエルズは、世界における日本の新らしい位置を理解して解説する達人だ。私にとって本書は、日本の軍事政策、思考、技術に関する彼の初期の影響力ある研究と同じくらい貴重である。説得力があることに加えて、読むことが喜びでもある」(ジェイムス・ファローズ)
「日本政治に関する抜群のアナリストの一人、リチャードJ・サミュエルズは彼の優れた新著で、日本の防衛議論解析に腕を振るった。荒れ狂う新しい時代における政策オプションを理解する上で有効だ」(ケネス B.パイル、『台頭 する日本:日本の力と目的の復活』の著者)
「中国と北朝鮮によって脅かされ、アメリカの信頼性について心配している印象の日本は、通常の強国のようなふりをし始めている。これがどこに向かうのか明白ではない。幸いにも、リチャードJ・サミュエルズはこの優れた本により我々の理解を助けてくれる。想定される東京の選択、それが東アジアと米国にもたらす結果を記述している」(ジョン J. ミアシェイマー、シカゴ大学 教授)
「本書でリチャードJ・サミュエルズは、日本の現在の戦略的な考えと方針を歴史をさかのぼって検証し、国内の防衛戦略議論を分析し、日本の新しい戦略的なコンセンサスを形づくるさまざまな要因を調査している。この本は日本やアジアを専門外とする国際関係・国際安全保障分野の研究者にとっても強い興味を引き起こすだろう」(Mike M.モチヅキ、ジョージ・ワシントン 大学)
<著者について>
リチャードJ・サミュエルズは、フォード・インターナショナル大学政治学教授、マサチューセッツ工科大学(MIT)国際研究センター所長。日米友好委員会議長で、MIT日本プログラムの創立者でもある。受賞作を含めて著書には「マキアベリの子どもたち:イタリア・日本のリーダーとその遺産」、「富国強兵:国家の安全と日本の技術的変化」があり、いずれもコーネルから発行されている。
コメント