日米関係は微妙なスレ違いをみせるようになった。日米双方にそのきっかけを生む出来事がある。米側にはマイク・ホンダという在米中国・韓国系の反日組織を支援団体とする議員が主導して、米国下院で慰安婦問題にからみ日本を糾弾する決議を採択した。
日米同盟に一抹の不安感を与える対日糾弾決議を米下院が、この時期に行う必要があるだろうか。軽率な行動と言わねばならぬ。
日本側では参院で第一党になった民主党の小沢代表が、シーファー駐日米大使と会うのにテレビ・カメラをいれる公開の会談を行うという非礼をあえてした。この非礼について米マスコミは一斉に非難している。
テロ特措法の延長は認めないという国内向けのパフォーマンスなのだろうが、延長法案が国会で否決されれば、米側の対日不満が一気に表面化するであろう。
民主党は参院にイラクに派遣している航空自衛隊の撤退法案を提出し、可決する方針である。この法案は衆院で否決されるから日の目をみないが、日米軍事同盟に不協和音を生む可能性がある。民主党が政権を取れば、日米関係に深刻な亀裂を生じかねない。
日本が米国離れをして中国・北朝鮮寄りに転じる外交転換を図るのが、国民の総意であれば仕方ない。しかし、その選択を民主党は総選挙で求めたことがあるだろうか。党内論議をすれば民主党は分裂するから、外交・防衛政策の基本的な論議がないまま、あいまい路線にとどまっている。
この二つのことは、日本がこれから取り組む自主的な防衛論の方向を示している。戦後レジームからの脱却とは、意識するとしないとのにかかわらず対米従属の日米軍事同盟から、緩やかな同盟関係に変質していく運命を内包している。
北朝鮮の軍事的な脅威が高まる中で、米国は日本の頭越しで北朝鮮接近をみせている。米国への過度の軍事的な依存の結果、日本の自主防衛論がなおざりにされてきた。それを考えるチャンスがきたと考えるべきであろう。それにしてもワシントンでの小沢評はかなり手厳しい。産経新聞の古森義久ワシントン特派員は次のように伝えてきた。
小沢一郎氏はオオカミの皮をかぶったヒツジなのか-。
<テロ対策特別措置法の延長に反対する民主党の小沢代表の態度をめぐり、米国の日本専門家たちの間では辛辣(しんらつ)で活発な議論が続いている。「全米アジア研究部会」(NBR)という民間研究機関の日本関連論壇サイトで米側関係者たちが実名を出しての熱い論議を展開しているのだ。
「小沢氏は結局、日本が安全保障上では国際的になにもしないという年来の態度を『国連優先』という響きのよいスローガンで隠しているだけだ。国連が現実には安保面できわめて無力なことはあまりに明白ではないか」
だから小沢氏はオオカミを装ったヒツジだ、と説くのはもう30年来、日米関係を報道してきたベテラン・ジャーナリストである。
「小沢氏は民主党内になお存在する日本が防衛問題で行動をとることにはすべて反対という旧社会党勢力を離反させないためにテロ特措法に反対するのだ。湾岸戦争当時、小沢氏ほど自衛隊海外派遣など安保面での対米協力を強く主唱した日本の政治家はいない」
これまた数十年間、日本研究を重ねてきた学者の言である。
このふたりの論者はさらに小沢氏がとにかく自民党政権を揺さぶり、自分たちが政権を取るという目的のためには、たとえ自分自身の年来の主張を変えてでも、反米や反国際協力の姿勢をとるようだ、という疑念を表明する点でも共通していた。
国防総省元日本部長のジム・アワー氏の批判はより辛辣である。
「小沢氏は北朝鮮のミサイル脅威や台湾海峡の有事、あるいは中国の野心的な軍拡という事態に対し国連が日本の安全を守ってくれるとでもいうのか。テロ特措法による日本の自衛隊のインド洋での給油活動は日米同盟への貴重な寄与だけでなく、アフガニスタンで国際テロ勢力と戦う多数の諸国による国際安保努力への死活的に重要な協力なのだ。その停止は日米同盟と国際安保活動の両方からの離反ともみなされ、日本自体の安全保障にも大きな損失となる」
確かに米国政界でもアフガンでの治安維持活動への支持は広範である。イラクでの米軍の活動に反対する民主党側の大統領候補バラク・オバマ上院議員や慰安婦問題で日本を批判したトム・ラントス下院議員も、日本のインド洋での後方支援を国際テロ撲滅やアジア安定への枢要な貢献だと礼賛した。
共和党側でも大統領選に立つルドルフ・ジュリアーニ前ニューヨーク市長は、日米同盟を通じての日本の安保協力強化の意義を強調し、もしアフガンでの作戦が失敗すれば、同国は再びテロリストの楽園になるだろうと警告した。慰安婦決議の日米関係への悪影響に配慮して下院外交委員会が超党派で採択した対日同盟感謝決議も、日本のインド洋での活動への高い評価を特記していた。
だから小沢氏の反対には米国側の超党派の反発が起きることは確実である。
しかもアフガンでのテロ撲滅作戦にはきわめて広範な国際参加がある。程度に差こそあれ、北大西洋条約機構(NATO)を主体に合計三十数カ国が関与する。私自身もカブールを訪れ、ルーマニアやイタリアという諸国の将兵が治安維持に加わっているのを目撃して、この活動の国際性を実感させられた。しかもその活動は国連安保理決議1386で認められているというのが一般の解釈である。
アワー氏はさらに小沢氏がトーマス・シーファー駐日米大使との会談をすべて報道陣にさらしたことを「外交儀礼に反する米国への非礼」と批判し、小沢氏が政権奪取という目前の政治的動機によって基本政策までを変えてしまうようにみえる点を非難した。
この2点は相互に無関係とは思えない。いまの日本で米国大使をあえて粗雑にあしらい、「反米」を演出することは一面、児戯めいていても、国内の一部にはアピールするのだろう。
小沢氏といえば、1990年代はじめ、日米経済摩擦にからむ日本市場の開放でも、湾岸戦争がらみの自衛隊海外派遣でも、日米関係重視という立場から米国の望みや悩みに最も理解を示す政治リーダーとして日米双方で知られていた。野中広務氏あたりからは「売国」に近いレッテルを張られたほどだった。そんな対米関係重視派がいまや反米パフォーマンスを売りにする。日本の政治とはそんなものなのか。(2007/08/25 08:02)
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