931 李明博・韓国大統領の公算 古沢襄

これは、むしろ黒田勝弘氏のような朝鮮半島情勢の分析家の専門分野なのだが、政治ジャーナリストとして及ばずながら関心を持ってきた者として、多少は荒っぽい見方を述べてみたい。ご批判は覚悟のうえである。
韓国野党ハンナラ党の大統領候補に選ばれた李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長は世論調査で53%の支持をえたと「中央日報」が報じている。与党の大統合民主新党の孫鶴圭(ソン・ハクキュ)前京畿道知事が9%というから、圧倒的優位に立った。
韓国の大統領選挙は12月19日。正式には来年二月に新大統領が就任する。劣勢の与党は10月2~4日に行われる平壌の盧武鉉・金正日南北首脳会談で世論の支持を集めて、一気に態勢挽回を図ろうとしている。
北朝鮮は親北の金大中・盧武鉉路線が代わることに危機感を抱いている。ハンナラ党に対する攻撃も露骨となってきた。
<最近、南朝鮮のハンナラ党が、ウルチ・フォーカスレンズ合同軍事演習が「縮小されたり、延期されてはならない」という内容の「スポークスマン論評」を発表した。
この合同軍事演習は朝鮮の平和と統一に有害で、朝米関係、北南関係にも害を及ぼし、世界の平和と安全にも有益でない戦争演習である。
にもかかわらず、ハンナラ党が同合同軍事演習にあくまでも固執しているのは、この北侵戦争演習を必ず強行して民族の和解と団結、平和と統一を志向する大勢の流れを6.15以前の対決状態へ逆戻りさせようとする許しがたい犯罪行為である。
ハンナラ党の下心は、わが軍隊と人民を刺激し、北南関係を悪化させることである。これにより、ハンナラ党は自らが標ぼうした「対北政策変化」なるものが民心を引き寄せるための真っ赤なうそにすぎないということを如実にさらけ出した。親米的、反民族的なハンナラ党の本性は過去も現在も全く変わっていない。(民主朝鮮論評)>
産経新聞の黒田勝弘ソウル支局長は、十二月の大統領選は「ハンナラ党VS盧武鉉・金大中・金正日」の構図になったと分析している。北朝鮮も早くから「ハンナラ党政権になれば戦争が起きる」と、ハンナラ党非難のキャンペーンを展開してきた。
さて、劣勢の盧武鉉・金大中・金正日支持者が大勢を逆転することができるだろうか。ハンナラ党の統一候補が誕生したので、これからは与党系の統一候補を選出し、盧武鉉政権の総力をあげて支持拡大のキャンペーンを繰り広げるであろう。金正日・盧武鉉首脳会談が、その役割を果たす。李明博候補の不正蓄財疑惑に対するアンチ・キャンペーンも激しさを増すとみる。
私は与党系統一候補の支持率が最低の状態からジリジリ回復基調をみせると思う。最終的にはほぼ互角に近い状態で12月の大統領選挙を迎えるであろう。大胆予測をすれば、それでも李明博人気に追いつかない気がする。
十年間に及んだ盧武鉉、金大中の時代から、韓国の国民は変化を求めている世論動向がみえる。盧武鉉政権は対北融和政策に偏り過ぎて、失業率の増大など経済政策で明らかに失敗している。対北融和政策という政治路線が色濃かった現政権に失望し、李明博ハンナラ候補の経済重視路線に魅力を感じる層が増えた。
金大中・盧武鉉・金正日の統一戦線は、李明博大統領になれば、朝鮮半島に戦争の危機が生まれるという”危機キャンペーン”をはるであろう。だが李明博候補は単純な米国・日本寄りではない。また肝心の米国が北朝鮮との融和政策に大きく舵を切っている。戦争危機が去った現状で、戦争危機を訴えてもそれほど効果をあげないのではないか。
各種データをみるかぎり、金大中、盧武鉉政権の誕生を熱烈に支持した若年層が、一転してハンナラ党支持に変わっている。その大勢は大統領選挙の12月になっても変わらないのではないか。

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