≪大問題の半分は片づいた≫
安倍改造内閣は各派の重鎮を揃(そろ)えて重厚な布陣となった。激しく批判していた舛添要一氏を厚生労働相、笹川堯氏を議院運営委員長に起用する度量の深さを見せる一方、倒閣に動いた谷垣派を干し上げた。参院枠の2つは守ったが、尾辻秀久議員会長の推薦を無視した。
小泉時代も崩せなかった青木幹雄氏が築いた“参院王国”がぶっ壊された。
“チーム安倍”の色彩が薄れたが、少ない同志を糾合して一気にやろうという手法は幼稚すぎた。重厚内閣に変じて“安倍路線”が変わるかというと、基本的に変わらないだろう。
今度はスピードを落とし、態勢を整えて目標に迫る方がよい。「戦後レジーム」に安住している人、脱却することを恐れている国民がこれほど多いと安倍氏は思わなかったのだろう。方向は正しいのだから、じっくり時間をかけて説明していく必要がある。
憲法改正は「国民投票法」が成立したが、3年間は発議できない。議論する時間ができたと認識すべきだ。「教育基本法の改正」と共に教育3法の改正も行われた。
伊吹文明文科相、山谷えり子教育担当首相補佐官の態勢で引き続き教育改革は推進できる。防衛省の昇格も果たした。社保庁の解体6分割はこれに勝る解決策はない。大問題の半分は片づけた。
≪内政の当面の課題は?≫
安倍首相が直面する内政上の最大の課題は公務員制度の改革と地方分権だ。渡辺喜美行革相に公務員制度を担当させる一方、総務相に増田寛也氏を起用した。増田氏は熱心な地方分権・道州制論者である。
この2人を安倍首相がどこまでバックアップできるかが安倍政権の評価を左右することになるだろう。公務員制度の改革は(1)人材バンクの設計(2)定年制、評価制度の導入-の仕事が残っているが、目標は公務員も民間並みの働き方にするということだ。
161の独立行政法人、特殊法人などはすべて法的根拠をもって設立されている。ろくな仕事もないのに何千万円もの俸給をもらうポストを作って天下る。これはどうみても“汚職”だ。
立法府がその設立に根拠を与えているのは、議員が手伝わされていることを物語る。この姿はまさに明治以来の「官僚内閣制」の姿だ。首相が目指しているのは、憲法の主旨通りに「議院内閣制」を確立し、官僚が政治、経済の分野を支配しているのを清算することだ。
官僚が4500法人に2万8000人も天下り、そこに税金が5兆9000億円も流れているのは異常だ。
地方分権は待ったなしである。国は戦後コメの値段を上げることで農村の所得を引き上げてきた。それが限界に達すると公共事業、農業土木に金を注ぎ込んできた。その結果が800兆円を超す借金だ。
小泉首相は三位一体を唱えて国税を住民税に振り替えたりしてきたが、疲弊した地方では、住民税の増収など全く期待できない。いま地方交付税は14兆円。ほかに19兆円の補助金がバラ撒(ま)かれている。
この補助金の大半を交付税並みに地方に配分することにしただけでも地方財政は自由度を取り戻し、活性化するだろう。こういう行政システムの改革を阻んでいるのは、補助金を握った中央官僚である。
補助金がなくなれば省の存立にもかかわると必死で握って離さないのである。こう考えると公務員制度の改革と地方分権とは密接な関係にあることがわかるだろう。
≪改革の足引っ張る官僚≫
増田氏は地方振興は補助金をもらってくることではなく、企業誘致や産業振興によるべきだとの論者だ。かつて国が音頭をとった新産業都市計画や工業団地造成はことごとく失敗している。そこに投資した程度の金額を地方に渡して自由に使わせていたら、様々な特色をもった都市が誕生していたに違いない。
安倍首相は道州制の実現を5年程度の長いスパンで考えていたようだが、中央集権制度を早く革命的に変える必要がある。首相の改革の足を引っ張ってきたのは中央のキャリア官僚たちで、公務員法の改正案は次官会議で決定できなかった。彼らは安倍政権が潰(つぶ)れるのを期待していただろうが、参院の第一党が民主党になって思惑は裏目に出た。
参院第一党の民主党も基本的には公務員制度の改革、その象徴として天下り禁止を打ち出している。また地方分権・道州制にも賛成だ。今後法案をめぐって両院協議会や与野党協議が行われることになろう。
官僚抜きで、法律や政策が政治家によって作られてこそ「改革」は実現できる。(「頂門の一針」より)
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