インド洋における海上自衛隊の活動継続は”対外公約”と言い切った安倍首相のシドニー発言を聞いて「思い切った発言をしたものだ」という感想を持ったが、次の日に安倍首相は対外公約を”国際公約”と言い換え、この公約が果たせない時は退陣の意向まで示唆した。
退路を断っただけでない。延長に反対する民主党の小沢代表を抱いて、滝に飛び込むぞ!と言ったようなものである。テロ特措法が廃案になれば米国はじめ諸外国の非難は、日本に集まる。安倍首相が退陣すれば、小沢氏が非難を受けねばならぬ。
安倍首相は「内閣総辞職」とか「退陣」という言葉は使っていない。慎重に言葉を選びながら「自衛隊の補給活動を継続していくための法案を国会に提出し、成立を果たさなければならない。そのために全力を尽くし、職を賭していく。職責にしがみつくということはない」と言っただけである。
最後の「職責にしがみつくということはない」の言葉を発する前に一呼吸置いた。これを心構えととるか、退陣にまで踏み込んだ発言ととるかは、人によって違うであろう。
しかも、この発言によって自民党内でポスト安倍をめぐる動きが、一時封印された。退陣を賭けてまでして、国際公約を果たそうという首相の背後で、多数派工作をやる文化は日本にはない。やっていることが分かれば、その瞬間に首相候補ではなくなる。
安倍首相は帰国後、小沢代表と党首会談を持つことを表明した。既に、テロ特措法の延長にはこだわらず、民主党の意向を反映させた新法の提出を検討する考えを示しているので、それが話し合いの焦点になるだろう。
しかし民主党は「辞めたいなら辞めればいい」と突き放した態度でいる。うまくいけば年内に解散・総選挙に追い込めると算盤をはじいているに違いない。その半面、もっぱら”風頼み”の民主党だから、悪者にはなりたくないという思いはある。
こうなると辞任の腹を決めた方が強い。解散・総選挙に応じるつもりはまったくない。もし、国際公約が果たせなければ後継首相を指名して、インド洋における給油活動の再開を託すであろう。
森前首相らは参院選の敗北後に安倍退陣は避けられないとした。しかし、テロ特措法の延長に賭けて、国際公約が果たせず退陣という方が見栄えがよく、将来に影響が残せる。少なくとも”野垂れ死”にはならない。お坊ちゃん首相の知恵とは思えない。誰か知恵者がいるのではないか。
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