1016 キッシンジャーと福田康夫氏 古沢襄

福田外交の基本はキッシンジャー(元米国務長官)と似た現実主義にある。日本の国益を外交の中心に据え、世界的なバランスオブパワーに配慮しつつ、日本に利益をもたらすことを目的としている。その意味では理念的だった安倍外交と対極をなしている。アジアのパワーである中国との外交を重視するから「媚中外交」と右翼筋から非難される。
劇的な米朝接近のシナリオはキッシンジャーが描いたものだというのは定説となった。アメリカの北朝鮮問題専門家レオン・シーガル氏は、昨年10月10日に北京でキッシンジャーが胡金濤主席と会談して、ブッシュ大統領の「北朝鮮が核を捨てたら、アメリカは平和条約に調印する」というメッセージを伝え、中国に伝達を依頼した事実を明らかにしている。
この時期に福田康夫氏はキッシンジャーとひそかに会談している。日本人嫌いのキッシンジャーが、日本の政治家と親しく会うのは、中曾根康弘元首相と福田氏ぐらいでなかろうか。自民党の総裁選に出ない福田氏にキッシンジャーが会ったというのが面白い。その後のある対談で福田氏は次ぎように発言している。
<福田 中国がこれからどういう発展を遂げていくか。これは分からない。中国はよくなるようにと努力しているわけだから、その気持ちをわれわれも理解して、協力できることは協力するということだ。近くの国で混乱があるのは好ましいことではない。それが正しい方向にいってくれることを、われわれとしても望まなければいけない。
きょう、キッシンジャーさん(元米国務長官)と話をしたが、外国からみていて、日本と中国の関係がおかしくなっているのは、強い印象を持って受け取られている可能性がある。これはゆゆしきことだ。今の状況を早く改善しなければいけない。>
だから福田首相になった時にキッシンジャーが日本外交についてどのような発言をするか興味がある。ひところと違って、日本はアジアでも有数の軍事力を保有しているから、キッシンジャーも日本をパワーとして認めざるを得ない。嫌いな国だが日本は無視できないと見ているのではないか。
米朝接近は北朝鮮が核を保有したとキッシンジャーが判断したからであろう。同じユダヤ系であってもネオコンなら、今回のイスラエルのシリア空爆のように北朝鮮の核施設を空爆して破壊したであろう。キッシンジャーは外交交渉で、北朝鮮に甘いアメを舐めさせようとしている。
だが北朝鮮がアメを舐めて核を本格的に放棄するであろうか。アメだけ舐めて、表面上は核放棄したふりを見せて、核を温存するのではないか。それが分かれば、キッシンジャーは迷わず軍事手段に出る。アフガン戦争、イラク戦争をキッシンジャーは支持している。
中国の軍部強硬派には北朝鮮に対する不信から、限定攻撃論があるという。一種の脅しだとは思うが、中朝関係は言われるほど友好的ではない。キッシンジャーが金正日を丸めこんで、朝鮮半島に中国の言いなりにならない地域を作られることを警戒しているという。そのゲームに福田外交が加わるのは危険な気がする。

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