朝鮮日報の朴勝俊(パク・スンジュン)北京特派員の報道は、微妙な中朝関係を鋭く突いている。金正日・盧武鉉の南北首脳会談で朝鮮戦争の終戦宣言案が俎上に乗ったが、「三者または四者」という表現をめぐって中国側が猛反発したという。
一九五〇年六月二十五日に勃発した朝鮮戦争は、越境南下してきた約十万の北朝鮮軍の前に八個師団六万五千の韓国軍が総崩れとなり、韓国政府はソウルを放棄し、首都を水原に遷都、ソウルは六月二十八日に陥落。
この動きに対してトルーマン米大統領は米国市民の韓国からの退去と、マッカーサーに韓国軍への武器弾薬の補給命令、海軍第七艦隊の台湾への出動を命じたが、即座の軍事介入には踏み切れなかった。
連合国軍総司令官ダグラス・マッカーサーは六月二十九日に専用機「バターン号」で水原に入り、自動車で前線を視察。そこで見たのは敗走する韓国軍兵士と士気の低下だったという。マッカーサーは派兵を韓国軍と約束し、在日米軍四個師団のうち二個師団を投入するよう本国に要請するが、トルーマンはマッカーサーに一個師団の派兵しか許可しない。
派遣された米軍先遣隊は七月五日の烏山の戦いで敗北を喫している。結局は国連軍(多国籍軍)は釜山橋頭堡にまで追い詰められた。この劣勢をひっくり返したのは、マッカーサーによる仁川上陸作戦。
補給線が伸びきった北朝鮮軍の後背を突く仁川上陸作戦によって国連軍の大規模な反攻が開始され、北朝鮮軍は敗走し九月二十八日にソウルを奪回した。態勢を立て直した韓国軍は十月一日に単独で38度線を突破、東海岸沿いに北朝鮮領内に深く侵攻している。
十月二日に北朝鮮は中国に参戦を要請したが、周恩来は「国連軍が38度線を越境すれば参戦する」と警告。だが十月九日には国連軍も38度線を超えて進撃した。ここにきて参戦に消極的だった中国は、人民解放軍を「志願兵」として派遣することを決定。派兵された中国人民志願軍は彭徳懐を司令官とし最前線だけで二十万、後方待機も含めると百万の大軍を投入した。
十月二十日、平壌を制圧し、中朝国境の鴨緑江に達した国連軍は、現れた中国義勇軍の人海戦術に圧倒され、38度線近くまで潰走することになる。朝鮮戦争は、まさに米国と中国の代理戦争に変わった。戦況は38度線付近で膠着状態となる。
マッカーサーは戦局打開のために中国東北部(満州)の越境爆撃を本国に求めたが、ソ連を刺激することを怖れたトルーマンはマッカーサーを解任し帰国させた。この後、ソ連の提案により停戦が模索されている。
一九五三年七月二十七日、板門店で北朝鮮・中国と国連軍の間で休戦協定が結ばれた。調印者は金日成・朝鮮人民軍最高司令官、彭徳懐・中国人民志願軍司令官、Mクラーク国際連合軍司令部総司令官の三者。韓国の李承晩大統領ははこの停戦協定を不服として調印式に参加していない。
この歴史的ないきさつからして、朝鮮戦争の終戦宣言案から中国を除外するのは、中国側の反発を受ける。あえて南北首脳会談で「三者または四者」の表現を用いた意図は何か。中国ならずとも理解に苦しむ。
<中国外務省は、南北首脳会談で採択された「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」(南北首脳宣言)に盛り込まれた「3者または4者」の首脳による韓国戦争(朝鮮戦争)の終戦宣言案で、3者の場合中国が外される可能性に憤然とした。
中国外務省高官は7日、「中国は米国、北朝鮮とともに停戦協定の3カ国のうち1カ国であることは厳然としており、停戦協定の変更に関する宣言が中国抜きでなされることは考えられない」とした上で、韓国大統領府の千皓宣(チョン・ホソン)報道官が「中国が抜けることも、含まれることもあり得る。(宣言は)中国が望めば含まれることもあることを示したものだ」と述べたことについて、「韓半島(朝鮮半島)の平和体制構築において中国が最も重要な当事者である事実を看過している」と指摘した。同高官は千報道官の発言について在韓中国大使館に真意の把握を求め、在北朝鮮中国大使館にも首脳宣言に「3者または4者」という表現が使われた背景について報告するよう指示したことを明らかにした。
同高官は「中国は停戦協定の当事国であるだけでなく、1997 年から99年まで行われた韓半島をめぐる4者会談の参加国であり、北朝鮮の核問題解決に向けた6カ国協議の主催国であると同時に、6カ国協議の五つの作業グループのうち、韓半島平和体制構築作業グループの参加国なのに、中国を排除した終戦宣言と平和体制構築は話にならない」と話した。中国外務省は千報道官が「3者または4者」は北朝鮮が提案したものだと述べたことについて、背景を確認するため、在北朝鮮中国大使館に電文を送ったという。
中国の寧賦魁駐韓大使は、4日に南北首脳宣言が発表された直後、「停戦協定を平和協定に転換するのは、韓半島と北東アジアの恒久的平和を維持する上で重要だと思う。中国はこの過程で建設的で積極的な役割を担う」と話した。寧大使の言及は中国抜きの3者(韓国、北朝鮮、米国)による終戦宣言は受け入れられないとの立場を明確にしたものだ。
匿名の中国専門家は「今回の事案に対する中国政府の立場は、単に残念というレベルを超えている。韓国、北朝鮮は平和体制定着だけでなく、統一が目標でありそこまでの道のりは遠いのに、国際社会の支援を受けても完遂することが困難な問題に自分たちだけで対処していくことはできないだろう」と話した。>
1038 中国抜きの朝鮮戦争終戦宣言 古沢襄

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