産経新聞の古森義久ワシントン特派員のねばり強い取材には敬服する。慰安婦問題の米下院決議を主導したマイク・ホンダ下院議員の背景を飽くことなく追求している。これによって私たちはアメリカ社会の負の部分を知ることが出来る。それにしてもワシントンには他のマスコミも大勢の特派員を送り込んでいるのに古森氏の独壇場になっているのは何故だろうか。
<米国で刑事事件での有罪判決を受けて逃亡中に大統領候補や議員候補の大物政治家たちに合計200万ドルもの献金をしていた中国系元ビジネスマン、ノーマン・シュー(徐)被告の軌跡は、知れば知るほど奇怪である。
献金の相手はヒラリー・クリントン上院議員をはじめ民主党候補ばかりに限られているため、特定の政治意図を当然、感じさせる。詐欺まで働いて私財を肥やしてきた人物が巨額の資金を単に寄付してしまうという行為は、背後の大きな資金源をも感じさせる。
こんご大統領選キャンペーンの本格化によっても、刑事事件捜査の進展によっても、米国の国政の場でこのシュー事件がより詳しく語られることは確実である。ナゾの数々も明らかにされることだろう。
だがこの事件のいまの黒い霧のなかでも、シュー被告の違法の疑いが濃い献金活動の軌跡が、日本を糾弾する慰安婦決議案の推進で広く知られたマイク・ホンダ下院議員(民主党)と接点を持ったことははっきりしている。ホンダ議員は9月下旬、シュー被告とその代理人から受け取った献金計5000ドルを放棄することを発表したのだ。放棄した資金は日系米人の高齢者介護施設などに寄付するという。
米国の民間の政治資金調査研究機関の「有責政治センター」(CRP)が公表した記録によると、ホンダ議員はノーマン・シュー被告から1000ドル、ディミプル・ポー(鮑)氏から1000ドル、ビビアン・ポー氏から1000ドル、ウィリアム・ポー氏から1000ドルをそれぞれ選挙のための献金として受け取った。受け取りの日付はいずれも今年6月25日だった。
ポーという人たちは発着する航空機がすぐ頭上を頻繁に飛ぶサンフランシスコ空港近くの小さな家に住む中国系家族である。家長のウィリアム氏は郵便配達員で年収は4万ドルほどだが、一家はここ数年、その数倍もの額を民主党の多様な政治家たちに献金してきた。一家の長男がかつてシュー被告の会社で働いた経歴があり、家族たちは同被告の代理として献金をしてきたことが明白だった。
ホンダ議員がシュー被告のからむもう一口の献金1000ドルを含めて違法性の強い計5000ドルを受け取ったことは、同議員と中国系の個人や団体との緊密なつながりを改めて印象づけた。同議員は慰安婦問題や南京事件で日本を一貫して糾弾する在米中国系団体の「世界抗日戦争史実維護連合会」の幹部たちから過去8年近い連邦議員歴で、ここぞという時期にいつも献金を受けてきた。
ホンダ議員の選挙民の3割がアジア系という構図のなかでも中国系からの献金が突出していた。その献金と引き換えの形で同議員はこれまた一貫して慰安婦決議案を連邦議会でプッシュしてきた。同議員と中国系とのこうした緊密な資金援助の関係をシュー被告の今回の一連の献金がさらに裏づけたということだろう。
公式の記録では、シュー被告は今年6月、ホンダ議員の誕生日パーティーを選挙区内で主催した際に、これらの献金をしたことになっている。だが同時に6月25日というのは、下院外交委員会で慰安婦決議案への投票が実施された日の前日だった。
ここまではシュー被告の献金と下院での慰安婦決議案の推進と、点と点とを結ぶだけの推測だとしても、同被告の献金が慰安婦決議案の早い時期の共同提案議員たちにも届けられていた事実は全体の構図を、もう少し鮮明にする。シュー資金は下院のトム・アレン、パトリック・ケネディ、デービッド・ローブサック、フランク・パロン各議員ら民主党の議員連に軒並み贈られていたのだ。各議員ともホンダ議員が今年1月末に提出した慰安婦決議案のごく早い時点での共同提案者ばかりなのである。
各議員たちがシュー被告のような中国系勢力から献金を受けたから、慰安婦決議案の推進へと動いたのだなどという断定はできはしない。多くはナゾに包まれたままである。
しかしホンダ議員にとってシュー被告からの政治献金は一体どんな意味や目的があったのか。だれもが感じる疑問だろう。同議員のカリフォルニアの選挙区内外では圧倒的に人気のある地元新聞「サンノゼ・マーキュリー・ニューズ」も、当然、ホンダ議員がシュー被告から受け取っていた疑惑の献金の返還について詳しく報道した。その報道記事は「本紙がシュー氏に関する取材インタビューを数回、申し込んだのに対しホンダ議員は一切、返事をしていない」と伝えていた。
日本側に対し公正や道義を何度も説いたホンダ議員らしくない対応である。(古森義久)
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