1065 米ユダヤ社会の力(2) 古沢襄

これは在ドイツのクライン孝子女史の専門領域になるが、ドイツにおけるロシア系ユダヤ人の数が増えているという説がある。移民に対して厳しい制限を加えている欧州の域内でこういうことがあるのか定かではない。
ロシア系ユダヤ人たちの移民先は米国とイスラエルになっているが、準戦時体制のイスラエルを嫌うロシア系ユダヤ人たちの中で米国に行けない人たちがドイツに行こうとしているという。イスラエルのロシア系ユダヤ人たちは治安の悪い地域に移植しているので、それが反アラブ感情を増幅させている実情がある。
イスラエルの建国に当たって、在米のユダヤ系アメリカ人がイスラエルに移住すると予想されていた。しかしユダヤ系アメリカ人は、ほとんど動いていない。移住した中には東欧系ユダヤ人、アラブ系ユダヤ人、アフリカ系ユダヤ人が加わっている。二億の人口のアラブ諸国と対峙するために五〇〇万のイスラエル人口は、さらなるユダヤ系移民が必要となった。今ではロシア系ユダヤ人は、人口の六分の一に達したといわれている。
総じてロシア系ユダヤ人はアラブ人に対する偏見があるから、シャロン首相のようなタカ派がイスラエルで力を強めている。強大な軍事力を背景にしてパレスチナ国家の建設を断念させようとする。米国内のネオコンとも連動している。
その一方で米民主党を支持するユダヤ系アメリカ人からは、パレスチナとの共存を模索する動きが出ていて、クリントン政権のイスラエル対策は、この政策を追求してきた。
米共和党もネオコン一色だったわけではない。レーガン政権下で最初はネオコンが登用されたが、やがて、その行動範囲が狭められている。パパ・ブッシュ政権下では軍事よりも外交を重視するキッシンジャー以来の”均衡戦略論”に移っている。
キッシンジャーはネオコンと対峙するユダヤ系アメリカ人の旗頭となった。その行動様式はニクソン政権下で超現実主義的外交を主導し、世界的なバランスオブパワーに配慮しつつ、米国とその同盟国に最大の利益をもたらすことを目的とした。
9・11同時多発テロ以来、ブッシュ政権はネオコン戦略に乗って、アフガン戦争、イラク戦争というタカ派路線をとってきたが、昨年秋からキッシンジャーの中道・現実主義外交に回帰している。
北朝鮮との和解外交を進めるライス国務長官、ヒル国務次官補は、キッシンジャー路線に乗っているといって良い。事実、昨年10月10日に北京でキッシンジャー・胡金濤会談が行われて、ブッシュ大統領の「北朝鮮が核を捨てたら、アメリカは平和条約に調印する」という北朝鮮に対するメッセージを伝え、中国の仲介の労を要請した。機を一にしてブッシュ政権からネオコンが一斉に退場している。
あれから一年、米朝融和の歩みは一進一退の状況である。その時期にイスラエル空軍機がシリア領内に越境爆撃を行った。北朝鮮がシリアの核施設にどれだけ関与したのか定かではないが、米国のネオコンとイスラエルのタカ派が、ライス・ヒル外交に不満を持ったのは容易に想像できる。

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