1118 福田首相の北朝鮮ルートは? 古沢襄

福田首相の北朝鮮ルートは外務省という政府一元化のものであろうか。小泉元首相は外務省の田中均アジア大洋州局長(当時)の秘密交渉ルートとは別に朝鮮総連に太いパイプを持つ飯島勲首席秘書官(当時)の裏ルートを持っていた。
2002年9月の小泉訪朝は2001年以来、水面下の交渉を担当していた田中均氏ルートによるものといわれたが、第二次訪朝は北朝鮮最高人民会議・代議員の肩書きを持つ朝鮮総連の許宗萬氏との裏交渉を重ねた飯島勲氏ルートが表面に出ている。
当時の官房長官だった福田氏は田中均氏を中心とした日朝両外務省の正式交渉を重視し、飯島勲氏ルートを重視した小泉元首相と対立している。
田中均氏は日朝国交正常化を最優先課題として、その過程で拉致問題の解決を図る手法をとっている。これが拉致被害者問題を軽視したと拉致家族会の反発を招き、福田首相は拉致問題の解決に消極的という印象を与えた。
小泉訪朝で北朝鮮に対する強硬姿勢をとった安倍官房副長官に国民的な人気が高まり、安倍政権下では、北朝鮮との対話より制裁強化で拉致問題の解決を迫った。その一方で安倍前首相も水面下では拉致解決を模索しているが、私は飯島勲氏ルートにウエートを置いていたと思う。
しかし日本の頭越しに米朝接近の動きが急激に高まったことは、北朝鮮制裁にウエートを置いてきた安倍首相にとって痛手となったのは否めない。再び対話路線を重視する福田政権の下で拉致解決の模索が始まっている。
北朝鮮にとっても日朝国交正常化によって日本からの経済援助が必要である。「拉致問題は解決済み」といっているだけでは、米国のテロ指定国家指定解除も進まない。金正日総書記が「すでに死亡した」とする横田めぐみさんらが「実は生存していた」と前言を翻すことは現段階では困難であろう。
しかし「その後の調査で新たな拉致被害者が発見された」とすることは、十分に可能性がある。北朝鮮としては、それで拉致問題の幕引きを図りたいのであろうが、日本としては認めることが出来ぬ。その綱引きが水面下で行われているのではないか。
これが日朝両外務省の秘密交渉で行われているのか、すでに民間人になった田中均氏も加わって交渉も平行して行っているのか分からない。田中均氏の交渉相手とされるミスターXの存在も気になる。
ただ高村正彦外相が拉致問題の「進展」の定義について「何人かでも帰国すれば進展であることは間違いない」と表明したことによって、ことは外務省ルートで運ばれていることを窺わせる。
これに対して町村信孝官房長官が「それを言って何か意味があるのか。相手に付け入る隙を与えるだけだ」と慎重論を唱えたのも微妙である。手懸かりがあるものの事態が具体化するほど進展をみていないのが現状ではないか。町村官房長官は前外相でもあり、現在の拉致問題担当でもある。
相手はしたたかな瀬戸際外交を演じてきた北朝鮮のことである。安易な楽観論に流れると国民や拉致被害家族に過大な期待を抱かせかねない。「関係者にあたかも何人かが帰ってきそうだ、ウチは入っているんだろうかとあらぬ誤解を招く」と町村官房長官がいうのは、それを危惧した発言であろう。
福田首相は記者団から外相と官房長官の発言が、閣内不一致ではないかと聞かれ「そんなことはない。思いは同じだと思う」とうけ流している。

コメント

タイトルとURLをコピーしました