1123 雲行き怪しい米朝交渉 古沢襄

ライス米国務長官がイラク・イラン・北朝鮮政策を主導してきたネオコン外交からの転換をブッシュ米大統領に強く進言したのは昨年秋だったという。政権内部からネオコン派と目される高官が一斉に退場しはじめた時期と重なる。中道の超現実外交論者であるキッシンジャー氏の北京訪問も、この時期に行われた。
劇的な転換をみせている米国の北朝鮮外交も、この路線転換とみることが出来る。1月16日から18日までの3日間、ドイツのベルリンで行われたヒル米国務次官補と、北朝鮮の金桂冠外務次官の会談は、ブッシュ政権下で初の米朝直接対話といわれたが、その内容はかなり踏み込んだものだったのではないか。
密約があったとさえいわれているのは、その後の米朝交渉の進み具合からみると単なる憶測と言い切れない感じすら持つ。だがライス・ヒル主導による北朝鮮交渉も、ここにきて雲行きが怪しくなっている。
もともと政権から外されたネオコン・グループはライス・ヒル外交に批判的だったが、今では共和党内の保守派にまで批判の空気が広がりをみせている。
北朝鮮による拉致問題の解決を至上命題としている日本は、拉致問題を置き去りにして米国が北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除まで突き進むことに懸念し、ブレーキをかけてきた。
日本側の懸念に対してライス国務長官は「ベルリン協議は、アメリカが二国間交渉を始めたことを意味しない。六カ国協議を進展させるために必要なので、二国間の形式で協議しただけだ。あくまでも六カ国協議の枠内での行動である」と言っていた。しかし、その後の経過をみれば、米国は明らかに米朝二国間交渉に傾斜している。
シーファー米駐日大使がブッシュ大統領に電報を送り、米政府が北朝鮮に対して、テロ支援国家指定解除を約束していたとしたら、「太平洋において最も親密な同盟国を裏切ることになる」として、日本との同盟関係を重視する観点から、解除しないよう求めたのは、この問題をめぐるヒル国務次官補の短兵急な動きに強い不満を表明したと解されている。
だが米共和党内に広がりをみせているライス・ヒル外交に対する懸念は、拉致問題を置き去りにすることではない。同盟国・日本の拉致問題は第二義的要素でしかない。
最大の問題はイスラエル空軍機が越境空爆したシリアの軍事施設にある。この軍事施設は北朝鮮が支援した核施設とみられるが、米国務省は詳細説明を避けている。もし米朝二国間交渉が行われている最中に北朝鮮がシリアの核施設支援を続けていたら、重大な背信行為なるからである。背信行為が明らかになれば、二国間交渉は根底から崩れ去る。
米国務省は詳細説明を避けているが、国務省筋からとみられる機密情報が、このとろ相次いで米マスコミに暴露されている。たとえば米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、イスラエル軍が9月に空爆したシリアの核開発疑惑施設について、すでに2003年9月の時点で建設中だったことを示す衛星写真を入手したと報じた。
専門家の分析として、建設作業が始まったのは01年ごろで、北朝鮮が支援を始めたのは90年代後半ではないかとしている。この写真はバージニア州の衛星写真会社から入手したものといわれるが、施設はイラクとの国境に近いユーフラテス川のほとりにあり、核施設とみられる建造物が写っている。
最近では米CNNがイスラエル機空軍機によって越境空爆したシリアの軍事施設が、ブルドーザー、トラクターなどによって、完全に消滅し整地が行われたと報じている。北朝鮮の援助によって建設したといわれる核関連施設の証拠隠滅を図ったという観測もある。
疑惑が払拭されないまま米国が北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除まで進むのは、すでに困難になったとみるべきであろう。衛星写真の分析が現在行われているが、北朝鮮は当然のことながらシリアに対する支援を否定している。
このような状況下で、訪米中の谷内正太郎外務事務次官と会談したネグロポンテ米国務副長官は、テロ支援国家指定解除問題について「米政府内でもいろいろな議論がある」と意味深長な発言を行った。米側にも依然として慎重論があることを示唆している。

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