1131 なんたる情けなさ 花岡信昭

なんとも言いようがない証人喚問だった。前防衛事務次官、守屋武昌氏。12年間で200回のゴルフとは。相手が業者でなくても、これはあきれる以外にない。
今後の焦点は、このゴルフ接待が贈収賄事件に発展するのかどうか、政治家への波及はないのか、といった点か。守屋氏は山田洋行元専務との会食の場に、防衛庁長官経験者が同席したことまでは認めたが、名前は明らかにしなかった。
このなんとも情けないゴルフ接待疑惑が国会の最大の焦点となっていることの情けなさ。新テロ特措法の審議を妨げる最大の要因となっていることの情けなさ。情けないという言葉を何度も使わなくてはならないのは、こちらも情けなくなってくる。
インド洋の海上自衛隊の給油支援活動は、日米同盟、日本の国益にもろにからむ国家的課題である。それが、こういう情けない前防衛次官の問題で、本質論の論議など吹っ飛んでしまう。そういう国会の現状がこれまたなんとも情けない。
野党はこの問題で福田政権を追い込もうとする。新テロ特措法の今国会成立はきわめて困難な事態となっているが、与党にとってみれば、成立断念を前提とすれば「守屋問題」は時間稼ぎには格好のものともいえる。
いってみれば、与野党双方にそれぞれの思惑から都合のいい「官僚たたき」テーマとなっている。
<<守屋氏が君臨した防衛省の「危うさ」>>
【日経BP社サイトSAFETY JAPAN連載コラム「我々の国家はどこに向かっているのか」第82回・25日更新】再掲
安倍前内閣で小池百合子氏の防衛相在任は55日間だった。小池氏は「北京の55日」になぞらえて「市ヶ谷の55日」と呼んでいる。この短期間で、小池氏は守屋武昌防衛事務次官の「更迭」を成し遂げた。一般には、なぜ守屋氏の「放逐」にあれほどの執念を見せたのか、疑問に思う向きも多かったのではないか。
守屋氏に防衛専門商社の元幹部とのゴルフ接待疑惑が発覚して、その疑問が解けたのではないかと思われる。守屋氏は4年も次官を務めたが、小池氏が守屋氏の更迭に執着したのは、単に在任期間が長すぎるということだけではない。守屋氏が君臨する防衛省・自衛隊の「体質」に、国家の危機管理を担う組織としてはあってはならない「危うさ」を感じ取ったからである。そこに、守屋氏個人の行状という次元を超えた深刻な現実がある。
もう20年以上前になるが、筆者も新聞社在勤時代に防衛庁(当時)を担当した経験がある。そのころ、既に守屋氏は防衛庁内局の超エリートとして、だれもが将来の次官候補を当然視するほどの存在感を示していた。
防衛庁幹部には当時の大蔵省や通産省、警察庁などからの出向組も多く、生え抜きの実力派に庁内の期待感が集まっていたのも事実だ。守屋氏はそうした声をバックとして着実にエリートコースを歩み、次官にまで上り詰めた。通常では次官の在任期間は2年程度なのだが、その倍を務めたことになる。だれも、そのクビに鈴を付けられなかったのだ。
防衛専門商社・山田洋行との「関係」は、防衛関係者の間でひそかに問題視されていた。防衛省は武器、弾薬をはじめとして、特殊な装備品の調達が必要な役所である。全国に展開する基地でも膨大な調達品が必要だ。公共事業全体が締め付けられている中で、防衛関連は残された「聖域」だったのである。
危機管理の視点からも指弾されるべき
これまでも調達がらみの事件、疑惑が繰り返されてきており、特定企業との「癒着」にはことのほか神経を使わざるを得ない。それが当然のあり方といえたのだが、守屋氏は違った。山田洋行を退社して新会社を興した元専務と年間20~30回もゴルフをしていたというのだから、これは異常さを通り越している。だれもそのことに諫言できないほど、守屋氏の威光には逆らえなかったということになる。
さらには、山田洋行の米国子会社の不正経理にこの元専務が関与していた疑惑も浮上した。こうなると、守屋氏にはゴルフ好きのワンマン次官というだけでは済まない責任も生じてこよう。
防衛省には2000年に定められた倫理規定がある。利害関係者とのゴルフやマージャンなどを禁じる内容だ。守屋氏は、これを承知してはいたが長年の個人的付き合いからやめることができなかった、などと述べているという。
倫理規定があろうとなかろうと、防衛事務次官がこれほど頻繁にゴルフに通っていたというのは、危機管理の元締めとしてはいかにもお粗末であり、緊張感を欠いている。ゴルフ場は千葉や埼玉など、都心から遠方にある。万一の事態が起きたとき、ゴルフ場にいたことが発覚したら、どういう非難を浴びるか、そこに考えは及ばなかったのだろうか。
通常ならせいぜい2年間ぐらいなのだから、次官在任中は遠出を避けるぐらいの感覚があってもいい。問題は業者とゴルフに興じていたこともさることながら、危機管理の最高責任者の1人がこういう生活を送っていたという弛緩した態度にある。たとえ、業者と一緒ではなく、個人的な行為であったとしても同様に指弾されるべきだ。
上から下まで弛緩した防衛省
防衛省はインド洋での海上自衛隊の米艦への給油量を間違えるという手痛いミスも犯した。それも間違いに気付いていながら上層部へ報告をせず隠蔽したため、イラク作戦への転用疑惑に発展した。80万ガロンを20万ガロンと間違って記載したものだが、「20万ガロンなら1日で費消する量だから、イラク作戦には使えない」と主張してきた根底が崩れてしまったのだ。
海上自衛隊の給油支援を継続するための新テロ対策特措法の審議は、「守屋問題」と「給油量隠蔽疑惑」によって、野党が勢いづき、おかしな方向に捻じ曲げられようとしている。守屋氏らへの証人喚問も浮上した。喚問をやるのは結構だとしても、日本の国際貢献はいかにあるべきかという基本的な論議が吹っ飛ぶのは間違いない。
政治的に見れば、この二つの疑惑が主題となったことで、新法の今国会成立はいよいよ絶望的となり、福田政権としては未成立の「格好の」理由ができたという側面もないわけではない。米国や国際社会に対しての「言い訳」にも使えよう。だが、それではいかにも情けない事態といわなくてはならない。
要は、「平和ボケ」が防衛省トップにも蔓延していたという冷厳な事実を見据えるべきではないか。日本に照準を合わせたミサイルを大量に配備している隣国があり、さらには、「9.11」と同様のイスラム過激派によるテロが日本国内で起きない保証はない。地震などの大災害もあり得る。
防衛省は防衛白書そのほかで国防・危機管理への備えを強調してやまないが、その肝心のお膝元がこの体たらくである。石破茂防衛相は守屋氏に退職金の返還を求める意向を明らかにしたが、「お仕置き」としてはまだ足りないぐらいだ。
防衛省にはイージス艦の機密漏洩などの問題も生じた。憲法上は「軍」ではないことになってはいるが、実態は世界有数の実力を備えた軍隊である。本来、軍には特別の軍法が必要で、国家の最高軍事機密を扱う以上、一般の公務員よりも厳しい規律が求められるはずなのだが、憲法の建前がそれを許していない。問題を起こしても一般法が適用される。
上は業者とゴルフ三昧、下は給油量を間違え、機密を漏らす。厚生労働省の「薬害肝炎リスト隠し」も人命にかかわる由々しき問題だが、防衛省には国家の安全保障が託されているのである。国家が容認した格別の暴力装置を保有する役所なのだ。米国では国防総省としてほかの省庁とは別格で扱われている。「省」に昇格したことでもあり、それにふさわしい組織の在り方を巡る総点検が求められている。 (「花岡信昭メールマガジン」より)

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