福田政権は予想以上に順調なスタートを切った。安倍晋三前首相の突然の退陣から1カ月余りを経て、なにやらあの電撃的退陣劇が遠い昔のできごとであったかのように、忘れ去られようとしている。
これが政治の世界の非情なところだ。政治展開のスピードはきわめて速く、国民の目線はそれに追いつくのがやっと、というのが実態だろう。
安定感はあるものの
福田康夫首相はその飄々とした性格を十二分に発揮して、国会答弁などもまずは無難にこなしている。自民党内は総裁選の後遺症も見られず、党内力学がおさまるところにおさまったということか、安定感を取り戻したかのようにすら見える。
福田内閣発足直後の支持率は50%台とまずまずである。年金不信、政治とカネ、閣僚の失言という参院選惨敗の3大要因も、一時ほどは騒がれなくなった。
小泉、安倍両政権は、それぞれの首相のキャラクターが前面に出た「劇場型政治」と言われた。福田政権は、そういってはなんだが、華も毒もなく、面白みには欠ける。
だが、突出もせず間違いもないというところが、騒々しい政治に飽きた国民には安心感を与えているということか。
郵政民営化で突っ走った小泉政権、戦後レジームの転換を掲げ憲法改正を前面に打ち出した安倍政権と比べ、福田政権は、いったい何をやろうというのか、どういう国柄を目指そうとするのか、そのあたりがまったく見えてこない。
消えた国家観
もっとも、福田首相はあえてそうした対決課題を打ち上げることを避けているのではあろう。国家観とか、保守政治の「こころざし」といった次元とは、どうやら無縁の政権であるようだ。
福田政権が直面しているのは、11月1日で期限が切れるインド洋での海上自衛隊の給油支援活動問題である。福田首相は新法の提出で対応するという選択を取ったが、早期成立は不可能だ。
海上自衛隊は11月1日にインド洋から撤退することになる。新法を成立させるためには、強硬に反対している小沢民主党の了解が得られない以上、「参院で60日間たっても結論が出ない場合は否決したものとみなし、衆院に戻して3分の2の賛成で再議決する」規定を使う以外にない。
この臨時国会は11月10日までだ。11月初めに衆院を通過したとしても、この60日規定を使うためには来年1月までの大幅延長が必要となる。
だが、福田首相はそこまではやる気がないらしい。12月中旬ぐらいまでの延長にして、アメリカや国際社会向けに「新法成立に努力した」姿勢を見せるだけにとどめ、来年の通常国会に先送りする公算が強まっている。
その問題よりも、福田首相にとっては予算の年内編成のほうが重要ということらしいのだ。
かくして、集団的自衛権の見直し、日本版NSC(国家安全保障会議)の創設、憲法審査会の実質審議スタート・・・といった「保守政権らしい」課題は、すべて先送りされようとしている。
その一方で訪米、訪中によって、対米、対中関係の維持をはかる、というのが福田首相の基本路線らしい。時期はともあれ、福田政権は衆院解散、総選挙に踏み切ることになる。そのとき、「保守のこころざし」を棚上げした政権がどこまで保守層の支持挽回を果たせるのか、そこを問われる段階がいずれやってこよう。(「花岡信昭メールマガジン」より)
1132 「保守の志」どこへ 花岡信昭

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