1163 いつまで「オザワ騒ぎ」をやっているのか 宮崎正弘

原油は11月7日、一バーレル=98ドルをつけた。週末から来週にかけて一バーレル=100ドルという未曾有の「新記録」をうち立てるだろう。市場の勢いをみていると100ドル突破は、もはや避けられまい。
最後の投資リゾートといわれる「金」も、28年ぶりの高値。近く、大飛躍して一オンス=850ドル(80年の瞬間風速)を抜く気配だ(いや、今晩ロンドン市場で抜くかも)。昨日すでに金価格は、一オンス=845ドルを超えている。
「勝ち組」と「負け組」がはやくも鮮明に現れた。中国とインドは「負け組」になりつつある。CHINDIA(チャインディア)と騒がれ、経済成長の脅威が続いているが、中国はガソリン・スタンド(GS)に長い長い列ができはじめた。この異常事態は先月からである。
ガソリンを公示価格で売らなくなり、10%プレミアムが常識。だから安いGSに列が突くのだ。平均90分並ぶそうな(日本のGS、すいてますねぇ)。
74年石油ショックを思い出されたい。
日本ではタクシーが半日GSに並んだ。長距離客をタクシーは嫌がった。交通事情はGSによる混乱、GSが中心の渋滞となった。
インフレはトイレット・ペーパーの買い占め、売り惜しみにまで及んだ。まったく同じことが中国全土に拡がるのは時間の問題であろう。すでに中国ではキャベツ10倍、レストラン7%前後、豚肉40%値上げと、狂乱物価の足音が聞こえている。
インドではガソリン値上げに抗議するデモで死傷者がでた。これはイランにつぐ事態だ。「インドの原油高騰による悪影響は中国より深刻だろう」とNYタイムズが書いている(11月8日付け)。ましてインドには国家による「戦略備蓄」がない。中国の国家備蓄も目標の半分にも達せず、そもそも備蓄タンクの建設が遅れている。
▼プーチンの高笑いがまだまだ続く
勝ち組の筆頭はロシア。プーチン大統領は保養地=ソチで、2012年のオリンピックを開くと豪語し、そのために200億ドルをポンと投資する。
旧植民地だったカフカスから中央アジアにかけてのイスラム圏も、またまた「家来」としてなびかせ始めた。
EU諸国は、ガス供給のパイプラインの元締めであり、政治的圧力をかけつづける。ロシアの政治力は格段に上がった。
ロシアの外貨準備は4000億ドルを優に越えている。不足しているのは製造設備などハイテク技術であり、「石油発掘作業員と農民と樵(きこり)しか我が国にはいないのか」というのが、プーチンの嘆きとなった。
したがってロシアの対日方針がガラリと変更になっていることに留意しなければならない。技術獲得のため、対日アプローチに熱を籠めだしたのがロシアだ。
勝ち組の二番手は中東産油国だ。
かれらこそ、有り余る余剰資金を面妖なる投機に回し、原油代金をつり上げ、金価格を高騰させた元凶である。ドバイには世界に唯一の七つ星ホテルを押っ立て、豪華ホテルが林立している。
オイルダラーは欧米のヘッジファンドに天文学的に投資されている。その金額は、いまや世界相場を動かしているのだ。シティもゴールドマンもスイス銀行もオイルダラーの意向を伺うのである。イスラエル? 米国の最近のエルサレムへの冷たさを見よ!
▼アンゴラとかスーダンの発言力も高まる
つぎにチャベス率いるベネズエラや、ナイジェリア、アンゴラ、スーダンという原油輸出国家群が「勝ち組」に加わり始めた。
まずは反米指導者チャべス(ベネズエラ)大統領が中南米政治地図を大胆に塗り替え、「反米のシンボルはカストロからチャベスへ移った」(拙著『世界新資源戦争』)。
スーダンは欧米の経済制裁が強化されてから、むしろ成長率7%以上を維持。中国の支援により、世界からのジェノサイド非難をもろともせず、首都のハルツームの豪華ホテルには昼間からプールサイドに寝そべる中国系豪商の姿がある(拙論「資源戦争の内幕」(『諸君』11月号を参照)。
 
さらにアンゴラ。
国民の7割が一日2ドル以下で暮らしている国で、首都の豪華ホテルは数ヶ月先まで予約がとれないほど盛況を極めている。
アンゴラは貧困、福祉を放棄した汚職政治という意味ではナイジェリアやダイヤモンドで腐敗を続けるリベリアなどの構造に似ている。いずれも背後に欧米メジャーにかわろうとする中国の影がある。
勝ち組四番手は意外にドイツである。
なぜなら勝ち組のロシア、中東に盛んにモノを売っているからだ。米国が制裁を科すイランにも多くの物資を輸出しているのは、ドイツである。メルケル首相は反共の闘士だが、中国へのアプローチも濃厚である。輸出大国ドイツの面目躍如。
▼世界経済の基本に地殻変動が起きている
さて世界経済の基本構造の変化とは何か?第一は米ドルが空前の激安時代に突入することである。
投資のポートフォリオとして、ユーロへの比重がたかまり、日本円は孤立し、中国人民元は切り上げを余儀なくされる。
原油代金はドル建てであるがゆえ、産油国はドルの目減りを埋めるために原油代金を値上げする。そのためにOPECは増産に応じないのだ。
日本はいつまでも米国に義理立てして、海外債券をドル建てオンリーをしておく危険を認識すべきだろう。
第二はユーロがますます強くなる趨勢が世界的規模に拡大して、つづくことである。それは株式、金融商品、コモデティなどの「マーケット」の根幹を揺らす事態になるかも知れない。
EUの原油決済も、ロシアのガス代金も市場はEUであり、ユーロ建て取引が普遍化した。乗り遅れているのは日本だけである。
第三にゴールド保有を市場に売却して減らしているのが日本。イギリス、スイス、スペインも金価格高騰をこれ幸いとばかりに財政赤字補填のために金を売却した。これを買ったのは中国、印度、産油国だった。しかし、国家の金備蓄を一オンスも売却していない米国。大混乱に陥ったときの金本位制復活も、シナリヲのひとつである。
日本よ、「オザワ」なるバカ騒ぎから目を覚ませ!(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)

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