ヒラリー民主党政権は中国に大甘、台湾に厳しく日本を軽視する。
次期米国大統領選挙の前段階、まだ予備選も始まっていないが、最右翼に位置するのはヒラリー・ローダム・クリントン上院議員(NY選出、民主)だろう。
彼女が最近の『フォーリン・アフェアーズ』(07年11月・12月合併号)に寄稿した日本軽視論の結論は「今世紀最も重要な国は中国だ」。
同文は「21世紀の安全保障と機会」と題されて、共和党有力候補のジョン・マケインの所論と巻頭に並んだ。
ともかく現在のブッシュ政権は中国を「戦略的パートナー」に格上げし、あまつさえゼーリック前国務副長官は「ステークホルダー」(共通の利益維持者)と米中関係を比喩した。
北朝鮮問題では、日本の頭越しに米朝二国間の秘密会談を行い、拉致問題は完全に棚上げ、核施設無力化などの始末を北京に丸投げして日本を裏切るかのような行為にでた。担当のヒル国務次官補は「キム・ジョン・ヒル」の異名をとった。
これらの米国の変身ぶりは日本の有識者に強い不信と衝撃を運んだ。「米国は日本を見捨てるのか」と。
さて『フォーリン・アフェアーズ』と言えば、1922年に創刊された、世界的に影響力のある雑誌だが、同誌に掲載される論文が歴史的瞬間にバイタルな決定打を放つばかりか、米国の外交方針に決定的影響力を持つ「米国外交問題評議会」(CFR)が発行を担当する母胎である。
古くは冷戦を説いた[X論文]こと、ジョージ・ケナン、近年ではキッシンジャーやブレジンスキーの論文が注目された。
そのCFRの主要幹部らが東京に揃ってセミナーを開催した(11月13日「米国と東アジアーー次なる課題」、六本木の国際交流基金国際会議室)。
「ジャパンプログラム2007」と銘打たれたセミナーは国際交流基金の助成により、CFRと朝日新聞、東京アメリカンセンターが共催。
スピーカーはリチャード・パースCFR会長、エリザベス・エコノミニー女史(CFR中国担当ディレクター)、アダム・シーガルCFR中国担当フェロー、シーラ・スミス日本担当フェロー、ゲリー・サモアCFR副会長らである。大事な会議なので筆者も出席した。
▼中国はどのような大国になり、世界システムとの整合をめざすのか?
そこで飛びだした発言の数々を拾ってみる。
まずはリチャード・ハース会長が「世界情勢は安定しておらず、米国はしかも国内からの数々の挑戦を抱えており、次期政権は厳しい状況に直面するだろう。とくにアジアはダイナミズムに溢れており、これまではプラスに評価できる面が多いが、その創造的ダイナミズムを維持できるか、どうか」。
続けてハースは、「地球的規模で力の不均衡が拡散し、核兵器、宇宙衛星、テロリズム、エネルギーの安全保障、水問題、環境などが、自由貿易、投資などの問題とともに世界的に何問だらけだ」と見通しを述べた。
中国専門のエコノミー女史は、「中国はこれから国際システムのなかに整合されていくのか、或いは中国はどういうビジョンをもって、どういう大国になろうとしているのか、成長は目覚ましいが、不透明なことが多すぎる。
かといって台湾が危機に陥るほどの軍事的冒険に中国が打って出る危険性は極めて薄い。けれども環境、人権問題と並んで安全保障面で脅威である事態に変わりはない」と述べた。
スピートのあと、エリザベス・エコノミー(CFRシニア・フェロー)は駐日中国大使館の女性職員の質問に答えた。
「なぜ米国は中国を脅威視しても軍拡に励むインドを脅威とは思わないのか」と質したからである。「それは透明性の問題よ」と。
「中国は空母を保有しているわけでもなくICBMは地上発射型が主流の旧型。近未来に米国に脅威を与え世界の覇権を握るほどの軍事大国をめざしているわけではないだろう」との楽天論は中国担当のアダム・シーガルの分析だった。
だが、宇宙衛生を破壊する軍事演習には米国も刮目しているとシーガルは続けた。
「ではなぜ米国は主要パートナーとして中国を位置づけるのか」とする日本側参加者の質問には「あらゆる論点で日本とは同じでも中国とは価値観が異なる。とくに貿易、特許権、人権では意見がまったく異なるが、GDP世界四位、外貨準備世界一の国と絶えず協議していくことが大事だから」と二人そろっての回答だった。
こうした大甘な、瀰漫した、緊張感のない中国認識がおそらく次期米国政権の対中認識の基礎におかれることになるだろう。
半世紀あとの話にせよ、中国が米国を追いつき追い抜く危険性の芽は、こうした米国の外交能力の瀰漫によって、すでに芽生えている。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)
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