守屋武昌前防衛事務次官の逮捕は時間の問題だった。「おねだり妻」も逮捕されたが、なんともいいかげんな夫婦という印象を強めてしまっては、後発防衛商社と防衛省トップとの癒着という肝心な側面がぼけはしないか、そこが心配だ。
事務次官の犯罪というのは過去にもいくつかあるが、防衛省だけは本来は特別な存在だ。アメリカでは国防「総」省である。軍事組織を束ねる役所なのだから、他省庁とは格段に違う倫理が求められる。
小池百合子氏はさすがであった。守屋前次官の振る舞いをすべて承知し、山田洋行との疑惑を把握した上で、更迭を断行した。あの決断がなかったら「現職次官の逮捕」となっていたかもしれない。
あのとき、守屋前次官は首相官邸に駆け込んだが、これを許した官邸側が情けなかった。次官の人事権は一義的には大臣にあるのだから、官邸には足を踏み込ませないという断固とした態度を取るべきであった。
このなんとも不埒な次官を生んだ土壌はどこにあったか。自衛隊は軍ではないという奇妙な解釈をしてきたことが最大の要因であるように思える。
憲法9条の制約で、国際紛争を解決するための戦力は保持しない、しかし、最小限の専守防衛はOK、だから自衛隊は軍ではない、といった摩訶不思議な解釈がまかり通ってきた。
そのため、軍事組織に不可欠の軍法もなければ軍事裁判所(軍事法廷)もない。一般の法規で裁かれる。国家が容認する「暴力装置」を維持管理する責任省庁が、これでいいのかどうか。
今回の事態も平和ボケの一環であろう。
接待ゴルフ300回。毎日やったら10ヵ月、グリーンの上にいたということになる。こういう人が日本の危機管理の元締めだったというのでは、背筋が寒くなるではないか。
一方で政治の現場では、民主党と自民党が額賀福志郎財務相の「アリバイ」をめぐる攻防を展開している。松本清張の「点と線」は、役所に食い込んだ業者のアリバイをどう突き崩すかがポイントだった。これは刑事の仕事である。断じて政治家がやることではない。政治の水準の低さを露呈していることに、気付いていないのだろうか。
それにしても、民主党は取り返しのつかないことをやってしまった。
27日夜の参院財政金融委員会で、額賀財務相の証人喚問を野党単独で決めてしまったのだ。
証人喚問の実施は全会一致が原則だ。1965年の国会法改正以来、衆院議員が衆院よりも先に参院で喚問を受けるというのは初めてだ。
逆の立場になってみれば、いかに理不尽な決定をしてしまったか、おのずと分かろうというものだ。
衆院ではいうまでもなく、自公与党が圧倒的な多数を制している。衆院で与党単独で証人喚問の実施を決めたら、民主党はどうするか。そういう事態がいかに異常であるかどうか、そこが分からなくなっているのだとすれば、これは尋常なことではない。
それも、「疑惑」の対象になっているのは、ジェームズ・アワー氏との会合に額賀氏が出たかどうかというものだ。額賀氏は出席の事実を否定、自民党も調査結果を発表した。
よしんば、額賀氏がこの会合に出ていたのだとしても、山田洋行との不明朗な関係を裏付けるものとは断定できない。政治家がその種の会合に出るのは、むしろ仕事のうちだ。
守屋前防衛事務次官の証言との食い違いをただして、どちらかを偽証で告発するつもりなのだろうか。
なにやら、「第2の偽メール騒動」の様相ともなってきた。この程度の次元で攻防戦を展開している国会の知的水準が、なんとも情けなくなる。
<<民主党の態度は「憲法侵害」?>>【産経新聞連載「政論探求」27日付】再掲
政権交代可能な二大政党時代の到来を待ちわびる立場からいえば、民主党の「成熟」が不可欠ということになる。
「力量不足で政権担当能力に疑問が持たれている」(小沢一郎代表)状況からの脱皮が急務だ。その意味で、民主党には意識的にきついことを書いている。
そこで、問わなくてはならないのは、民主党は「憲法侵害」に踏み込もうとしているのではないかということだ。少なくも憲法が想定した状況とは背反する態度を取ろうとしている。
新テロ対策特別措置法は臨時国会の会期を延長し、憲法59条が定める再議決規定(参院で60日間結論が出ない場合、否決したものと見なし、衆院の3分の2の賛成で再議決が可能)が適用される可能性が濃くなった。
民主党はその場合、首相問責決議を参院で可決して、国会を機能不全に陥れ、衆院解散に追い込もうという戦略だとみられる。再議決規定、問責決議の趣旨を完全に履き違えている。
政治の世界のことだから攻防戦に手練手管が使われるのは当然だが、憲法の趣旨に沿う行為なのかどうか、政治や憲法の専門学者たちに確認したのだろうか。
憲法は衆院の優位性を認めている。首相指名選挙、予算案採決など衆院の議決が優先される。再議決規定は、政権与党が参院で少数派になっても政治の安定を損なわないようにするための措置だ。問責決議には政治的意味合いはあっても、憲法上の根拠はなく法的拘束力はゼロだ。衆院の内閣不信任案とはまったく違う。
民主党がそういう策に出ようというのなら、自公与党は衆院で首相信任決議を採択すればいい。問責決議よりも上位に位置することになる。
インド洋で支援活動に当たっていた海上自衛隊の補給艦が帰国した。これによって、インド洋に日本のプレゼンスはなくなり、国際社会での位置づけは、サッカーファンにはこういう引き合いを出しては怒られるかもしれないが、J1からJ2に降格した。
この屈辱的事態を招いた張本人は、民主党である。どんな理屈があろうとも、6年間続けてきた支援活動を、参院選で勝ったという事情だけを根拠にして葬り去った。これで政権担当とはおこがましいといえないか。
それでも、数人の民主党議員が晴海埠頭(ふとう)に出迎えたのがせめてもの救いだ。民主党の中堅・若手には二大政党時代を担う責任感と自負心を持った議員たちが少なくない。こうした層が主流となったとき、政権獲得への道が開かれるような気がする。(「花岡信昭メールマガジン」より)
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