米国情報評価(NIE)の「イラン核開発停止」報告はどこまで信憑性があるか。ブッシュ政権の中東政策は混乱の極みに陥没するのか。
イランが原子力の「平和利用」を標榜し、ウラン濃縮プロジェクトを推進している。地下の秘密工場を十数カ所に分散して分厚いコンクリートで堅め、IAEAの完全な内部査察を許さない。
だからIAEAの報告では「核兵器開発の疑惑は解けない」とした。フランスとドイツは国連でのイラン制裁強化をまとめようとしていた。ブッシュは08年1月9日にイスラエル初訪問の外交日程を明らかにしようとしていた。
このタイミングだった。国家情報評価(NIE)が発表した「イランが2003年秋の段階で核兵器開発計画を停止していた」という分析は国際的な衝撃をもたらした。
米情報機関は2005年報告で「イランは「核兵器開発を決断している」と分析していたのだが、基本方針を逆転させているのだ。
ブッシュ大統領は10月にも、「第3次世界大戦を回避したければイランに核開発させてはならない」と武力行使も辞さない強硬論をぶち揚げていた。
NIE報告は「イランはコストと利益を考えて決断を下した」と分析する一方で、かといって「イランは計画を停止していても核兵器製造に転用可能な能力をつけてきている」。つまり「中断」ではっても、「中止ではない」と指摘した。
「ウラン濃縮活動を継続中だから2010~15年に核兵器製造に十分な高濃縮ウランを生産することは可能」ともNIEは指摘したが、このことをマスコミは小さくしか伝えていない。
この報告にホワイトハウスはとまどいを隠さない。ようするにタカ派攻撃なのだから。
直ちにブッシュ米大統領は記者会見し、NIE報告に関して発言。「イランが依然、核開発に転用可能なウラン濃縮活動を継続している」。だから「核兵器製造に必要な知識を有する限り、イランは過去も現在も将来も危険だ」と強調した。
「米国はイラン攻撃を含むすべての選択肢を残しておくのが効果的な外交だ」とブッシュ大統領は発言し記者会見をしめくくった。
▼背後に国際謀略の影が。。。
こうした一連のイラン核疑惑騒ぎを眺めていて、いくつかの疑問が残る。
第一はブッシュ政権のなかにイラン政策を変更させようと策するグループが存在すること。明確にブッシュー・チェイニー路線に弓引く意図をもつ。
第二は、その派がロシア情報機関と「提携」している可能性もある(INSニュース、7日付け)。NYタイムズはNIEの評価換えは「イラン高官とイランの軍幹部との会談を盗聴し、その結果、偽情報ではない、と判定したから公表に踏み切った」と情報の出所を推測したが、それも怪しい。
第三はイスラエルに対してブッシュ政権からの背信的なパンチになって、イスラエル初訪問を前に米国とイスラエル関係に効果的亀裂を生まれさせた。
オルメルト(イスラエル首相)とアッバス(パレスチナ自治政府)首相とを米国アナポリスに呼んで、中東和平についてブッシュ政権は真剣な和平への妥協を探ろうとしていた矢先でもあり、やはり、冒頭にのべたように、一種国際謀略の臭いが紛々としているのである。(「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より)
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1274 国際謀略の臭いが紛々 宮崎正弘

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