1275 「犬も自殺する」 古沢襄

動物作家の戸川幸夫氏が「犬も自殺する」という斎藤弘吉氏の説を紹介している。
第一次世界大戦の出来事である。軍用犬係であったイギリス軍の軍曹ダグラスがドイツ軍を猛攻を受けたアミアン陣地を死守して戦死した。戦場で戦死者の遺体を火葬にふす作業が始まったが、軍用犬”テラー”は、遺体となった主人を守って渡そうとしない。
それを戦友が押さえつけて火葬にしていたら、テラーはまっしぐらに火の中に飛び込んで焼け死んだという。アミアンにあるダグラス軍曹の墓石に「忠犬テラーの魂はダグラス軍曹の霊とともに永久に祖国を守るべし」と刻まれたというから実話。
忠犬ハチ公の話を持ち出さずとも、日本にも愛犬が主人の死を悲しみ川に飛び込んで自殺した話がかなりある。悲しみのあまり食を絶って餓死した犬もいる。動物学者の中には「自殺は”死”という事実認識があって成立する。抽象的な”死の観念”の存在が必要である」と犬の自殺説を否定する。
人間が犬語を全部分かる筈はないから、これは理屈であろう。
戸川氏は岩手のマタギと犬の実話を紹介している。マタギが犬を連れて山に入ったが、雪崩に巻き込まれマタギは遭難死した。犬は主人の遺体を雪の中から掘り出したが、遺体の側を離れず餓死した。飢えと寒さで死んだのであろう。
私は、この十五年間、三代にわたってコーギーというイギリス犬を飼った。初代はローマ・オリンピックで銀メダルをとった水泳選手から貰ったメス犬。チロと名付けて可愛がった。十二歳で病院で死んでいる。
チロは一人息子のバロン(一世)を産んでくれた。私が産婆役をやったので、父親だと思ったらしい。十二歳の時にチロと同じ腎臓病で死んだのだが、病院からも見放されて自宅で終末を迎えている。
玄関のマットのところで寝ていたが、ヨロヨロと歩いてきて、私の膝元まで来たところで息が絶えた。私は自分の息子を失った思いがして、一ヶ月以上も何をすることが出来ないほど気持ちが落ち込んでしまった。
生前のチロとバロンは夜、私が寝る時には寝床の両側で”川の字”になって寝てくれた。地震がくると二匹がガバッと起きあがり、一斉に吠える。犬には人間にない予知能力があるのかもしれない。
バロンの死後、ケンネル・ハウスに行って、犬を見てバロンを失った悲しみを癒していた。その中の一匹のコーギーが元気者で、サークルの中から私に飛びついてくる。とうとう大枚を出して、このオス犬を買ってきた。
血統書には祖父犬がチャンピオン犬だったとある。バロン二世と名付けた。チャンピオン犬の孫だけあって力が強く、跳躍力はチロやバロン一世の比ではない。バロン一世はよく消化不良をおこして下痢をしたが、バロン二世は一年八ヶ月になるが下痢をしたことがない。
苦手は地震と雷。稲妻が走ると私のところに飛んでくる。家の中でも、どこに行くのもついてきて離れようとしない。甘え者である。ようやくチロとバロン一世を失った悲しみから脱却するようになった。十五年間のわが家の愛犬物語である。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(12月1日現在1241本)
           http://www.kajika.net/blog.html

コメント

タイトルとURLをコピーしました