師走の慌ただしさの中で中国の対日平和攻勢が顕著になっている。日本は隣国の中国と仲良くするに越したことはない。アジアの巨人である日本と中国が角をつき合わせて喧嘩ばかりしているようでは、他のアジア諸国にとって迷惑なことであろう。
だが、ここにきて中国が日本の主要閣僚を招待して両国の閣僚レベルの対話をセットしたり、最大野党の民主党の小沢代表ら衆参両院議員40数人を招いて胡錦濤国家主席が一人ひとりと握手する歓迎ぶりをみせた。あまつさえ福田首相の年内訪中を呼びかけてきている。来年には胡錦濤国家主席が訪日する入れ込み方である。
小泉政権時代に反日デモが頻発したのが嘘にような様変わりとなった。この急激な変化は、日本にとっては悪いことではない。相手が仲良くしようと積極的に手を差しのべてきたのだから、その手を振り払って島国・日本に閉じこもるのは愚かなことである。
しかし杜父魚ブログの「北京、北京へと草木も靡く」で述べたように、中国は基本的には国際情勢の変化に応じて異なる対日カードを切ってきた。その意味では永久不変の”理念的カード”の持ち主ではない。その時々の情勢をみて変幻自在の動きをみせる”実利的カード”を切っている。
基本的には日本と中国は異なる政治体制のもとにある。とくに人権に関する感覚が日本や米国、英国、フランス、ドイツなどとはまったく違う。自由な報道は許されず、公権力が報道に容赦なく干渉してくる。
その国家が何故、これほどまで対日平和攻勢をかけてくるのか?そこをきっちり認識したうえで対処しないと浮ついた日中友好ムードだけに流されて、中国が違うカードを切った時に、日本は混乱し戸惑う愚かさを露呈しかねない。
江沢民時代の反日攻勢は過去の話ではない。中国指導部の中には江沢民派が依然として無視できない勢力を温存している。
ひるがえって米国は「日本は最重要パートナーで、日本がアジア太平洋地域および世界的懸案に対しても指導的役割を引き続き果たすことを期待する」(米共和党の全国大会)と持ち上げながら、実際に行ってきたのは伝統的に日本軽視・中国重視の外交路線である。この国が持っているのも中国と似た”実利的カード”である。
およそ世界の大国は自国の国益で動く。その意味では”実利的カード”しか持っていないのが国際政治の現実である。ここにきて米国も日本の対中接近を気にしはじめた。
私は日本の経済力、軍事力をめぐる米国と中国の綱引きが始まったとみている。超大国・アメリカの経済力にかげりが見えてきた。世界の警察官を自負してきたアメリカの軍事力をもってしてもイラクの混乱を納めることができない。
その間隙をついて中国は対日接近に急カーブを切ったのであろう。日米離間策というほどの大げさなものではない。日本がアメリカ一辺倒から脱却して、中国の方にも顔を向ける程度の期待感ではないかと思う。
中国は国家目標として台湾を彼らの言葉でいえば”解放”しようとしている。選択肢として武力解放もあきらめていない。台湾海峡で火が噴けば、日本が厳正中立を守り、米艦船に対する補給業務はしないことを望んでいる。
日本の海軍力は中国を凌ぐものがある。海軍力で米国に対して劣勢にある中国にとって日本の海軍力がどういう形であれ、米第七艦隊の補助戦力になることだけは阻止したい。これはまさに”実利的カード”。しかもかなり先をみた”実利的カード”である。
日本が中国の接近策に乗って中国側に引き寄せられれば、米国は日本を引き止める行動に出ざるを得ない。このカラクリを承知のうえで中国の対日接近に応じるべきでではないか。
危険な火遊びになるかもしれないが、二つの大国が日本という大国を”実利的カード”の見地で対処してきているのだから、こちらもしたたかな”実利的カード”を持つ必要がある。日本は否応なしに熾烈な国際ゲームに巻き込まれている。
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1280 師走の対日平和攻勢 古沢襄

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