1304 日本の国防にとって画期的なステップ 古沢襄

日本の国防は国民の生命と財産を守るものだから、コスト対費用効果で律するものではない。生命はカネで計れるものではないことは自明の理である。しっかりとした国防の裏付けがあってこそ外交が力を持つ。世界の大国ならずとも小国に至るまで、このことを知っている。
安倍内閣はこの点がはっきりしていた。北朝鮮による日本人拉致を糾弾する姿勢が基で成立した政権だったからである。若さと未熟さを露呈して政権の座を去ったが、その旗印は消えていない。福田内閣がこの旗印と違う方向に走れば、その命運は尽きる。民主党も同じである。生活が第一のスローガンの前に国民の生命が第一の理念がなければならぬ。
日本は北朝鮮の脅威の前に晒されている。仮に六カ国協議で北朝鮮の核保有が封印されても、日本に照準を合わせたノドン・ミサイル200基は撤去されない。その脅威がなくなるまで自国の防衛努力に最善を尽くすのは、これまた自明の理である。
極めて簡単な理屈である。だが立場を変えて親北朝鮮勢力なら別の考え方をとる。韓国の金大中・盧武鉉政権と同じ様に北朝鮮との融和政策に走るであろう。融和政策そのものは悪いものではない。しかし自国の防衛を等閑にして、丸裸で融和政策を説くのは国民から支持されない。
金大中・盧武鉉の左派政権が韓国民の支持を失ったのは、自国の経済破綻を顧みずして南北融和政策に走ったからである。日本はこの轍を踏んではならない。北朝鮮に残された拉致被害者を救出し、ノドン・ミサイルを撤去させてこそ北朝鮮との国交正常化の道が開ける。
この考え方に立てば、海上自衛隊のイージス艦「こんごう」から発射される海上配備型迎撃ミサイル・SM3の発射実験が成功したのは、日本の国防にとって画期的なステップとなった。すべてのミサイルを撃ち落とすことは、できないにしても東京から静岡のドラム缶を正確に破壊するに等しい技術力を持ったことは、新たな抑止力を持ったことになる。
産経新聞は次の様に米ハワイ・カウアイ島沖での実験の成果を伝えている。
<海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」が米国以外で初めてミサイル防衛(MD)システムの基幹をなす海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の迎撃実験を成功させたことで、中国や北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に日米が共同で立ち向かう基礎が完成した。今後、米国向けミサイル迎撃に関する集団的自衛権の問題をどう解決するか、日米の情報共有や作戦をいかに効率的に実行するかといった課題に関し、日米間での緊密な協議が必要となる。(加納宏幸)
米ハワイ・カウアイ島沖での迎撃実験に出席した防衛省の江渡聡徳副大臣は記者会見で「今回の成功は同盟関係の変革を現すものであり、日米同盟にとって記念すべき歴史の1ページとなった」と胸を張った。
「こんごう」は来年1月初旬に日本に帰国し、実戦配備される。防衛省は当初、来年3月までの配備を予定していたが、昨年7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射や同年10月の核実験を受け、米側に整備の加速を要請、約3カ月の前倒しが可能になった。
北朝鮮、中国がそれぞれ1000基以上の弾道ミサイルを持つとされる中、日本にMDの一翼を担わせようという米政府の意欲の表れだ。米ミサイル防衛局のオベリング局長は「成功は日米のMDにとって大きな一歩となった。MDで日本が指導的な立場の国として開発計画を推進していることに感謝する」と期待感を示す。
日本政府はすでに、SM3が撃ち漏らした弾頭を地上から迎撃する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を首都圏の2カ所に配備し、20年度末には2隻目のSM3搭載イージス艦を配備して日本全土をカバーする態勢を整える。
米軍もSM3搭載イージス巡洋艦「シャイロー」を横須賀基地(神奈川県)、PAC3を嘉手納基地(沖縄県)、移動式早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)を航空自衛隊車力分屯基地(青森県)にそれぞれ配備し、日本でのMDシステム整備を進めている。
米国がMD整備で日本を重視しているのは、中朝両国による弾道ミサイルでの攻撃により、自衛隊や在日米軍が無力化する恐れがあるからだ。米本土やハワイに届く中国の移動式弾道ミサイル東風31号や北朝鮮のテポドン2の脅威に対する抑止効果も期待している。
米側はこうしたミサイルの迎撃が可能になる技術的進歩を見据え、日本に配備されたMDシステムが米国防衛に直接寄与するように日本政府対し、集団的自衛権を行使できないとする憲法解釈の見直しを求めている。
安倍晋三前首相は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で米国向けミサイルの迎撃や、米イージス艦が攻撃を受けた場合に日本が反撃できるかといった課題の検討を始めた。しかし、集団的自衛権の行使に否定的な福田康夫首相の下で懇談会は一度も開かれておらず、今すぐに憲法解釈が見直される可能性はほとんどない。
また、イージス艦中枢情報流出事件で露呈した日本側の機密保全態勢のずさんさはミサイル発射の兆候に関する情報共有の障害となる。今回の迎撃実験成功により日米両国のMDシステムは「運用の時代」に入ったといえ、日米両国が円滑にシステムを運用する態勢の整備が急務となる。>
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