1305 謝長廷次期総統候補は自信満々 宮崎正弘

民進党は50議席とります、と謝長廷(次期総統候補)は自信満々。三月の総統選挙は「台湾維新」と「安全保障」を前面に闘う。
台湾が中国の一部である、と首唱しているのは北京だけである。
米国もEUも日本は「中国が『台湾は中国の領土の不可分の一部』と主張していることに『留意』する」と言っているだけで、決して認めている訳でもない。
歴史的事実を繙いても大陸の王朝の治世が台湾におよんだことはなく、蒋介石は「連合国」の名で勝手に台湾に乗り込んで島民を支配し、宗主顔しただけである。
しかし日本のマスコミがこの点を曖昧にしているので、あたかも統一に反対し、台湾独立をいう勢力はスーダンやアフガニスタンのワーロード(武装部族や叛乱ゲリラ)のごとく扱われている。
凄まじいほどに不公平である。日本のマスコミへの北京の影響力の浸透は計り知れない。
ところが日本の民意はマスコミ報道とは正反対で、秋に訪日した「統一派」の馬英九(国民党候補)の行く先々には抗議デモがあって宿舎の周辺でも「馬、帰れ!」のシュピレヒコール。
一方、今回の謝候補の訪日では京都駅でも品川駅でも大歓迎の横断幕に歓迎の人並み、17日の市ヶ谷で開催された歓迎会は超満員となった。
「日本は米国のように『台湾関係法』を制定して欲しい」と謝長廷(元民進党主席、元高雄市長、現民進党次期総統候補)は明言した。日米アンポ条約に賛成する、とも。
18日に東京有楽町の外国人特派員協会(外人記者クラブ)のランチョン・スピーチの席上である。
謝氏の記者会見にはメインホールが満員になる盛況で内外マスコミ各社の貴社とテレビカメラや新聞のフラッシュ。演壇には民進党立法委員で外交アドバイザーでもある粛美琴(シュービキム)女史が並んだ。
「今回の争点? 安全保障と経済です」
謝長廷は、弁護士出身らしく、論理的に、ときにジョークを連発して話した。日本語の質問には日本語で流暢に、北京語媒体には北京語で答え、もちろん外国人記者の英語の質問には英語でこたえるというタレントぶりも発揮した。
台湾では、北京の強硬路線と、ミサイル配備や種々の恐喝により、むしろ台湾人としてのアイデンティティが拡がり(昔は30%しかなかった「わたしは台湾人だ」という意識が70%にまで拡がっている)、事実上独立している、主権のある国家という認識がほぼ確定している。
北京の恐喝的外交は逆効果だったのだ。
▼北京の台湾政策は「もっと老獪になった」
中国は明確に対台湾アプローチを換えた。ハードな面貌をソフトに換えてニコニコし始めたのは連戦、宋楚愈という国民党、親民党の大幹部を北京に招き、胡錦濤自らが会見して、話し合いのポーズを示したことに象徴される。
選挙に関してもミサイルをぶっ放すジェスチャーさえ見せず、いや、内政干渉的な行為を表立ってはしていない。
しかし裏面では台湾財界、ならびに台湾マスコミ工作を着々と進め、世論の分断を図っている。
台湾分裂を制止する「反国家分裂法」を制定したが、この一方的な新法がカバーしているのは台湾全島ばかりか、尖閣諸島を含んでいる。日本政府はこのことに抗議の声を挙げていない。
同時に台湾財界の有力者をつぎつぎと陥落させ、財界有力者に「両岸和平法」なる提案をさせている。
外交方面の工作はもっと重要かつ深刻である。北京は米国と反テロで協力する路線に便乗して、ワシントンの台湾擁護姿勢に露骨に介入し、先般は「台湾住民投票」に関して米国は「独立を示唆するいかなる政治行動にも反対する」と露骨な政治介入を台北に対して行った。
陳水扁政権は狼狽した。日本もこれに便乗して台湾に住民投票への疑義をつたえるという外交上の失態、台湾への内政干渉をおこなって台湾の民衆を失望させた。
しかし総選挙と三月の総統選挙前哨戦を現段階で眺める限り、中国は台湾問題に表立った介入をせず、したがって米国も、同時に行われる住民投票への態度を表明していない。
次回の住民投票は、「台湾が国連加盟を『台湾』の名前で行う」(民進党)か、「国連に『中華民国』の名前で復帰するか」を住民に問うというもの。率直に言って法律的有効性も国際的な合法性もない。
「政治効果を見極めた上で徒らに反発して台湾民衆の反中国勘定を刺激するより、もっと老獪に洗練されたアプローチをしてきた。北京がソフトに見えるのは戦術の変更にすぎない」(膨明敏・総統前資政。96年の民進党総統候補者。このとき副総統候補が謝氏だった)
     
スピーチの最後に謝長廷候補は、質問に答えるかたちで、「総選挙では民進党は50議席を目指している」と明言し、自信のほどを示した。
総選挙では与党の敗色が濃厚だが、総統選挙に関して言えば、この安全保障問題、アイデンティティ問題ならびに住民投票の心理効果が輻輳し、決して世論調査が示唆するような馬英九独走というムードではないようである。
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