1319 寧辺の核施設の無能力化で米朝対立? 古沢襄

日本のマスコミが韓国の新聞報道を直接伝えてくるのは珍しい。しかもワシントン情報の転電。その内容は米朝間で寧辺の核施設の無能力化について対立しているというスクープである。ソウル共同をみてみる。
<韓国紙の朝鮮日報は24日、ワシントンの複数の外交消息筋の話として、北朝鮮が寧辺の核施設の無能力化について、実験用黒鉛減速炉(5000キロワット)の冷却塔と同炉用の核燃料の「完全な廃棄」は対象外と主張し、米国との間で対立が生じていると報じた。
同紙によると、米国は北朝鮮側に、使用前の核燃料を手放すことと冷却塔の破壊を要求。これに対し北朝鮮は、無能力化後の段階の措置であり、さらなる見返りを受け取ることが条件として、要求を拒否している。
米国は、核施設の再稼働までの期間を1年以上確保することを無能力化の目的とし、「完全な廃棄」はこのために不可欠。「すべての核計画申告」とともに、これらが履行されない場合、テロ支援国家指定の解除や対敵国通商法の適用除外の措置を取ることはできないとの立場という。(共同)>
朝鮮日報は杜父魚ブログでも時折、紹介してきた韓国の保守系紙。ここで育ったジャーナリストには日本分析家が多いことでも知られている。内容的にも週刊誌的な”飛ばし記事”が比較的少ないので私は信用している。問題の朝鮮日報の記事は次の様なものである。
<北朝鮮は現在作業が進められている寧辺核施設の無能力化について、核燃料と冷却塔の完全な廃棄は無能力化の対象ではないと主張し、米国と対立していることが22日に明らかになった。
ワシントンの外交消息筋によると、米国は核の専門家を含む代表団を数回北朝鮮に送り、実際の無能力化作業において、使用前の核燃料も廃棄し、内部施設の一部にのみ無能力化作業が進んでいる冷却塔についても施設そのものを破壊することなどを要求している。
これに対して北朝鮮は、これら二つの内容は無能力化の段階が終了してから「行動対行動」の原則に沿って、今後の核廃棄段階において見返りを得た上で進められるべきと主張し、米国の要求を拒否している。とりわけ北朝鮮は使用前の核燃料について、廃棄や接近しないことを要求する米国に強く反発しているという。
ワシントンの消息筋は「米国は核燃料や冷却塔の完全な破壊が行われないとすれば、核施設を再稼動するのに3カ月で十分と認識している。そのためこれら二つの問題は無能力化段階に含まれるべきと要求している」と述べた。米国は無能力化の概念について、核施設の再稼動に最低でも1年以上を要する状態と規定している。
米国はすべての核開発リストの提出なども含め、これらの措置が無能力化段階において実行されないならば、テロ支援国や敵性国交易法の解除は不可能という立場だ。そのためこれらをとりまく問題が今後長期化する可能性も排除できない。(ワシントン=李河遠特派員)
ワシントンの消息筋というのは米国務省の高官であろう。これまでライス国務長官、ヒル国務次官補からは楽観的な見通しが伝えられていた。とくにヒル国務次官補にこの傾向が強い。
日本の外務省取材をした私の経験だが、外務事務次官のオフレコ記者会見を聞いていると、これまでの発言と微妙に違うニュアンスがでることがある。聞き逃す程度の違いだが、それを外務省内や官邸筋などで追いかけると大きな外交転換の兆しを掴むことがあった。
ライス米国務長官はカナダのベルニエ外相との会談した20日に「北朝鮮が利益を得るためには、正確な申告をしなければならない」と記者団に語っている。当然といえば当然過ぎる発言だが「オヤ!」という印象を私は持った。
朝鮮日報の李河遠特派員も同じ印象を持ったのではないか。米マスコミや日本のワシントン特派員は、それほどの印象を持たなかったのではないか。どちらの判断が正しかったか、現時点では断定できない。
さらにライス米国務長官は訪朝した国務省のソン・キム朝鮮部長が北朝鮮側と「重要な議論を行っている」とも述べている。李河遠特派員は早速、ソン・キム朝鮮部長に取材をかけたのであろう。それが朝鮮日報の米朝交渉が予断を許さない段階にあるという観測記事になったのではないか。
ライス米国務長官は「朝鮮半島の非核化に向け、順調に進んでいる」と満足の意を示して記者会見を締めくくった。これを額面通りに受け取るか、李河遠特派員の様に懐疑的にみるかは判断は分かれるところである。
ただライス米国務長官もヒル国務次官補も年内に米朝交渉がまとまると一貫して楽観的であった。それがほぼ不可能なのは誰の目にも明らか。やはり北朝鮮は一筋縄でいかない相手である。
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