カリスマ的なイスラム穏健派の指導者だったブット元首相の暗殺でパキスタン情勢は一気に混迷の度を深めた。一月八日の総選挙は不可能であろう。支持率低下の一途をたどるムシャラフ大統領には混迷の事態を解決する力がない。
イスラム過激派の跳梁を押さえる力は米英はじめ西欧諸国にはなくなった。ロシア、中国にも、その力がない。肝心のイスラム諸国も国内のイスラム過激派の跋扈を押さえる手だてを見いだせないである。
<【イスラマバード28日共同】パキスタンのブット元首相暗殺を受け、野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派=PML(N)を率いるシャリフ元首相は27日夜、記者会見し、暗殺を防げなかったとしてムシャラフ大統領を激しく非難、即時辞任を求めるとともに「ブット氏との連帯感を示すため」として、同党が来月8日の総選挙をボイコットすると語った。
ブット氏が総裁を務めていた野党パキスタン人民党(PPP)は40日間、喪に服すと発表。同党関係者は正式決定ではないとした上で「選挙不参加を決めたことに等しい」と述べた。ムシャラフ大統領の与党パキスタン・イスラム教徒連盟クアイディアザム派の幹部も選挙戦を自粛すると言明、予定通りの総選挙実施は極めて困難な情勢となり、当面延期されるとの見方が強まっている。
首都近郊ラワルピンディの暗殺現場に居合わせた目撃者は、犯人はやせた若い男で、2発銃声が聞こえた後、自爆したと語った。>
私には事態が最悪の方向に向かう気がしてならない。
治安が悪化しているパキスタンにブット元首相が帰国したのは、情勢悪化を懸念したブッシュ米大統領の後押しがあった。それなら米国はブット元首相の生命を守る責任があった筈である。治安責任を持つムシャラフ大統領に何を働きかけていたのであろうか。
ムシャラフ大統領は戒厳令を施行したと思ったら、すぐ解除したり、およそブット元首相の警護に万全の措置を取ったとは思えない。ブット元首相が率いるパキスタン人民党が第一党になる勢いを示していたことから、ムシャラフ大統領の与党・パキスタン・イスラム教徒連盟の党員が暗殺者だったという疑いすら流れている。軍部にはタリバンに心を寄せる者がいるとも言われてきた。
カリスマ党首を失ったパキスタン人民党の中には抗議行動で各地で暴徒化する者がでている。それを弾圧すれば穏健なイスラム派も急進的な行動に走るおそれがある。中途半端なブッシュ外交の失敗といわざるを得ない。
イラク、アフガン、パキスタンでイスラム過激派が勢いを得ているのは、ブッシュ外交の蹉跌からきている。民主化のスローガンは結構だが、イスラム世界のことはイスラム穏健派に委ね、それを支援することに西欧陣営は徹するべき時期にきているのではないか。
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1329 ブッシュ外交の蹉跌 古沢襄

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