1330 故郷で「自由人」になる 古沢襄

北朝鮮の一方的なゲーム展開となった今年が間もなく終わりを告げる。米朝交渉も米国の譲歩につぐ譲歩だったが、まだ決着をみていない。金大中・盧武鉉の親北路線のお陰でカネや食糧の援助もたっぷり戴いている。今年だけでみれば北朝鮮の瀬戸際外交の勝利と平壌は自信を深めたのではないか。
だが当の盧武鉉大統領は27日、故郷で「自由人」になると述べ、事実上の政界引退を表明した。世界でもっとも金正日総書記と至近距離で接触した政治家としては寂しい幕切れである。
自身が中心になってつくった旧与党ウリ党が今年に入って解体。もはや政治的な影響力はゼロに等しい。平壌での南北首脳会談を終えソウルに帰還した盧武鉉氏について産経新聞の黒田勝弘ソウル支局長が「盧大統領は”金正日の謎”に迫れたか?」という記事を書いていた。私には寂しい葬送曲のように思えたのだが・・・。
<【ソウル=黒田勝弘】平壌での南北首脳会談を終え4日、ソウルに帰還した韓国の盧武鉉大統領にとって最大の成果は“金正日情報”だろう。歓迎式から始まり2回の会談、昼食会など計5時間以上も金正日総書記と至近距離で接触した。最近、金総書記とこれほど長時間、付き合った外国人は世界でほかにはいない。
朝鮮半島あるいは東アジア情勢で最大の謎は金正日総書記である。核問題などで米国をはじめ国際社会を巻き込んでいるため、今や金総書記は「世界の謎」でもある。
彼はいま何を考えているのか。核問題をどうする気か? 日本人拉致問題の処理は? その国際情勢認識は? 対米国、中国、日本観は? あるいは国内情勢観は? 韓国内政への関心は? 知識量や哲学、人生観は? その話術や交渉術、思考方法は? 性格や人あしらいは? そして何よりも健康状態は?
今回の首脳会談は世界が注目するこうした「謎」を解く絶好のチャンスだった。国際貢献という意味では、発表された「平和繁栄宣言」などより、この“金正日情報”の方がはるかに大きい。これによって盧大統領と韓国は、世界の平和と安定に大きく寄与できるのだ。
関心のマトになっている健康状態は、映像によって一定程度チェックできたが、より詳細はいずれ明らかにされよう。
盧大統領はこうした“金正日情報”をもってブッシュ大統領や福田康夫首相とも堂々と議論できるし、世界の指導者は盧大統領の話に耳を傾ける。盧大統領は“金正日情報”を独り占めしてはいけない。国際社会と共有することで世界から注目され、評価される。
平壌での3日間の南北首脳会談は、北朝鮮の独裁体制と閉鎖性をあらためて国際社会に印象付けた。国際的に注目された公式行事にもかかわらず、首脳の出迎えは極秘にされ、歓迎式の場所も2時間前に2度も変更されている。
首脳会談では金総書記は予定より30分も前に現れ、会談が始まると突然、盧大統領に滞在延長を提案している。いずれも国際的常識では考えられないことだ。相手にお構いなく思い通りに行動しているのだ。
これは7年前も同じだった。文字通り史上初の歴史的首脳会談だったにもかかわらず、北朝鮮は直前になって突然、1日延期を通報している。また、金総書記は歓迎式の後、金大中大統領を突然自らの車に同乗させ、韓国側の警護陣をあわてさせている。
いずれも独裁者特有の行動だが、これは北朝鮮という国の不透明性と重なる。韓国も国際社会も、この不透明性をそのままに、北朝鮮と交渉したり支援・協力したりしている。今回の宣言では前回のような「金総書記のソウル答礼訪問」は消え、「随時会う」となっているが、いつになれば予測可能で正常な首脳会談になるのだろうか。
平壌での金正日総書記の予測不能ぶりは、身辺安全のための“秘密作戦”との見方がソウルではもっぱらだ。自分の国でもこれだから“敵地”のソウルにはまず出かけられないだろう。
盧大統領は会談後、金総書記について「簡単ではない壁があった」「疑心がある」と述懐している。金総書記は韓国からの経済的な支援・協力はほしいが、開放は怖い(?)。独裁状況の緩和など本当の“変化”にはまだまだ時間がかかりそうだ。>
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